【グリーが担うサステナビリティ】千葉大学にて誹謗中傷被害について対談を実施

グリーでは毎年、「教育の情報化」を担う教員を養成することを目的に、千葉大学教育学部と共同で授業のプロデュースを行なっています。
今年度は学生たちが「誹謗中傷」をテーマにしたアプリを制作し、教育学部付属小の児童に、アプリを通して誹謗中傷について学んでもらう実証授業を予定(2023年1月)しています。
今回は、現在進められているアプリ制作に向け、誹謗中傷被害者の吉田達裕さん(元 NHKディレクター)が、ご自身の実体験について、グリー社員の小木曽と対談した様子をお伝えします。

皆さんは京都アニメーション放火殺人事件をご存じでしょうか。2019年7月に、社員36人が犠牲となった非常に痛ましい事件です。

この日、NHKの取材クルーとして現場に居合わせたのが吉田さんでした。「現場に居合わせたディレクターが怪しい」という憶測がネット上に投稿されると、それを信じてしまった人たちから、全く謂れのない誹謗中傷を次々と受けることになりました。捏造した画像を使って吉田さんを共犯かのように名指しするものや、虚偽の経歴が記載されたデマ投稿が拡散され、吉田さんの人格を否定するような内容がネット上に溢れたのです。

こうした吉田さんに関するデマ投稿は、実名や顔写真、出身地などの個人情報とともに拡散され、SNSの個人アカウントや職場に、脅迫ともとれるメッセージや郵送物までもが届くようになりました。

対談の中で、吉田さんから事件当日の様子、凄惨さ、辛さや無力感といった当時の心境や、世の中の反応などを交えながら、ネットを超えて現実世界にまで影響を及ぼした誹謗中傷被害の恐ろしさを教えていただきました。

「今だからこそ、ようやく話せるようになった」と仰る吉田さんには、大学生の真剣な眼差しが注がれ、お話の生々しさに教室内は終始、ピンとした空気が張り詰めていました。

その後、特に悪質な投稿者に対しては、NHKが原告となり民事訴訟を起こしました。いずれも勝訴しましたが、全ての裁判が決着するまでには3年もの長い年月がかかりました。

吉田さんは、「投稿者からきちんとした謝罪はなく、気持ちは全く晴れていない。いまもネット上には私を共犯かのように扱うデマ投稿が多く残っている。いわゆるデジタルタトゥーです。失ったものは大きく、それらを取り返すことは難しい」と仰いました。

最後に、今回の対談について、吉田さんおよび千葉大学教育学部教授の藤川先生よりコメントをいただいておりますのでご紹介します。


吉田様

吉田さん:誹謗中傷の問題を解決するには、何よりもまず法整備をもっと進めてほしいです。何もできない被害者の無力感。裁判の圧倒的な負担感。これらは、個人の努力でどうこうできる範疇を超えているからです。ただ、ユーザーひとりひとりにできることもあるはずです。こうした問題は、結局は「相手のことを思いやれるか」とか「相手の未来を想像できるか」とか、コミュニケーションの話が根っこにあると思うんです。これからの時代を築く学生のみなさんには、単純な「規制」とかそういう話だけでなく、「コミュニケーション」の観点からもこの問題を捉えて、深く考えてみて頂けたらと思っています。


藤川先生

藤川先生:学生たちがこれからの時代の教育を担えるよう、ネットでの誹謗中傷という現代的な課題を扱う教材を、自分たちでプログラミングして開発してもらっています。教材開発にあたり、誹謗中傷の実際について学生が想像できるようになることは非常に重要であり、学生たちは吉田様の具体的なお話をしっかり受け止めたものと感じます。理不尽な誹謗中傷をなくすために教育でできることを、これからも進めていきたいと考えています。

今や一億総メディア社会と叫ばれる時代、たった一度の虚偽投稿が、誰かの人生を一変させるほどの力を持ち始めました。私たちは、その便利さを享受するためにも、ネットを正しく使う必要があります。ですが、その“正しさ”は誰かが教えてくれる訳でもなく、自身で学び、判断しなければなりません。吉田さんのお話は、その正しさにあらためて向き合うきっかけとなりました。

大学生たちのアプリ制作も続いています。彼らが、大人でも定義が難しい「誹謗中傷」について、小学生とともに考える授業が来年1月に実施されます。この授業の模様も本ブログでご紹介する予定です。