REALITYとのタッグがイノベーションを生んだ。メタバース株主総会の実態

2021年9月28日、グリー株式会社は、第17回定時株主総会を「メタバース株主総会」と称し、完全オンラインで開催しました。今年6月の法改正により実現した完全オンラインでの開催ですが、株主さまにとって新しい体験のなかで戸惑いがないよう、REALITY社と協力し、事前にアバターを用いた案内動画をお届けするなど、グリーグループならではの工夫がありました。
事業部とコーポレート部門の協力の背景について、REALITY社と法務総務部の皆さんに聞きました。

徳田徳田:グリー株式会社 コーポレート本部 法務総務部 組織法務チーム
2010年 グリー入社。特許・商標・著作権を担当したのち、組織法務チームに異動し2015年まで株主総会業務を中心とするコーポレート関連の法務業務を担当。さらに他社でも契約、知財、コーポレート関連の経験を経て、2018年グリー再入社。

中三川中三川:グリー株式会社 コーポレート本部 法務総務部 組織法務チーム
他社にて、経営企画・IR・経理・人事などコーポレート部門の他、事業部門の責任者としても従事。さまざまな業務経験から法律に興味を持ち、独学で法務を学び2020年グリーへ入社。組織法務チームで株式実務や組織再編などを担当する傍ら、兼務先のアドミニストレーションチームではガバナンス業務を担う。

鮎田鮎田:グリー株式会社 コーポレート本部 法務総務部 アドミニストレーションチーム
2012年 グリー入社。グループ子会社にて、経理・人事・総務・経営企画・広報など、コーポレート部門の業務領域に幅広く従事し各業務における運用フローを確立。2019年よりグリー法務総務部にジョイン。

貝塚貝塚:REALITY株式会社 XR Entertainment事業部 Studioチーム
2010年 グリー入社。海外オフィスの立ち上げや海外向け事業のマーケティング・PRなど複数の事業を経て、XR事業開発部でVR動画制作、会社紹介動画制作などを担当。現在はREALITYのStudioチームでバーチャルイベント制作の進行管理を主に担当。過去にVR360度動画で株主総会を収録した経験があり、今回の株主総会案内動画プロデューサーを担当した。

「株主さまとのより良い対話」を目指して取り組んだ「メタバース株主総会」

ーー今回グリーグループでは「メタバース株主総会」を開催したということですが、今までの株主総会と何が違うのでしょうか。


徳田

徳田:今までの株主総会では、会社法の規定により、どのような会社でも物理的な会場を用意する必要がありました。しかし、2021年6月に法改正があり、物理的な会場を設けなくても株主総会を開催できるようになりました。
グリーでは、数年前からIT技術を活用した株主総会に取り組んでいます。本年は法改正を機に、より多くの株主さまに、より平等にオンライン上で株主総会に出席する機会を提供することを目指し、物理会場のない株主総会を開催しました。


中三川

中三川:物理会場を設けずに行う株主総会は、経産省等では「バーチャルオンリー株主総会」と表現されていますが、聞き慣れないため、イメージしにくい株主さまが多いと思います。そこで、グリーでは「完全オンライン株主総会」という表現にし、招集通知にも記載してご案内しました。
今回REALITY社とタッグを組んだことや、メタバース事業参入のタイミングもあいまって、 「オンラインで時間や場所にとらわれず、会社と株主さまがコミュニケーションを取ることができる」ことは、「メタバース」であればこそ先陣を切って取り組めるものだという考えに至り、「メタバース株主総会」と名称を改め開催しました。

ーーコロナ禍以前からバーチャルでの開催に向けて取り組まれてきたと、昨年の記事にもありましたが、そもそもなぜ取り組まれてきたのでしょうか。


徳田

徳田:株主総会は株主さまと会社が「対話」しながら、重要な意思決定を行う場です。より良い対話を行うために、毎年工夫を凝らし準備を進めていますが、物理会場での開催では、ごく一部の株主さまにしかご来場いただけませんでした。限られた費用やリソースを、本当に良い対話のために効率的に利用できているのか、以前より疑問に感じており、より良いコミュニケーションを実現するために、少しずつオンラインでの取り組みを増やしてきました。
昨年は物理会場での開催をベースに、オンライン出席という選択肢を加えたところ、遠方にお住まいの株主さまにも気軽にご参加いただけるようになりました。また、オンライン出席の方は質問もテキストで送信できる仕様にしたことで、より多くの株主さまに質問をいただけるようにもなりましたし、議案との関連性が高い質問が増加し、質の高いコミュニケーションを取ることができたと実感しました。今までは総会を開催している間の1~2時間のみしかコミュニケーションの場はなかったのですが、「グリー株主総会Portal」という株主さま専用の期間限定サイトを制作し、開催の数週間前からお知らせを掲載するなどして、コミュニケーションの場を拡充することもできています。

ーー完全オンラインでの開催にあたって課題や懸念はなかったのでしょうか。


鮎田

鮎田:株主さまにはさまざまな年代の方々がいらっしゃいます。中には、「インターネットがあまりよく分からない」という方もいらっしゃいますし、「分からないから、今までどおり物理会場に行きたい」という方も一定数いらっしゃるのではないか、ということが懸念としてありました。




徳田

徳田:それなら物理会場も用意しよう、と考えがちですが、やはり我々としては事業の中心であるインターネットを多くの株主さまにご理解いただき活用いただくことでより良い対話につながると考えているため、完全オンラインでの開催に挑戦し、株主さまの参加へのハードルを下げることに尽力しました。その中で、まずは参加するシステムを使いやすいものにするため、昨年よりシステムを提供いただいたているブイキューブさまとともに、仕様のブラッシュアップに努めました。


鮎田

鮎田:また、システムをどれだけ使いやすくしても、まずはグリーのメタバース株主総会について理解を深め、抵抗感を減らすことが不可欠なため、「完全オンラインでの株主総会ってどんなもの?」「出席するにはどうすればいいの?」といった疑問点を解決する動画を事前にお届けしました。
この動画はREALITY社と協力して制作し、メタバース空間で私が扮する株主総会初心者の「あゆこ」が、中三川さん扮する先輩の「なかみー」に、完全オンラインで開催する株主総会についての素朴な疑問をぶつけていくストーリーで進行します。


ーーREALITYとの協力はどのように生まれたのでしょう。


中三川

中三川:私自身が、株主として他社さまの株主総会のライブ配信をいくつか拝見する中で、開会前の待機時間に事業紹介動画を流している企業さまがあり、それがとてもかっこよかったんです。社内のミーティングでその話をしたら、「メタバース株主総会について分かりやすくご案内をしつつ、REALITYの事業についても株主さまに知っていただけたらいいよね!」と話が盛り上がり、その翌日にはチーム内で実施が決まり、さらにその翌日にはREALITY社に頭出しをさせていただいていました(笑)。


貝塚

貝塚:最近REALITYでは新卒社員の内定式や、グループ総会など、グリーグループ内でのイベント実施を担う機会が増えてきたのですが、グループ従業員の方々にも幅広くREALITYの活動を知ってもらえる機会になったと思います。そこから、グループ内での新しい取り組みや、他企業さまとの取り組みに繋がっているので、今回もぜひ積極的に取り組もうと思いました。

事業間の視点が、イノベーションを生んだ

ーーREALITYではさまざまな動画コンテンツなどを作ってきていると思いますが、今回特に工夫したことや難しかったことなどはありましたか。


貝塚

貝塚:バーチャルイベントの制作経験が豊富なREALITYには、ステージ上のパフォーマンスや、視聴者の参加型コミュニケーションを取り入れた「場を盛り上げる」企画・演出が得意なメンバーが多くいます。しかし、今回は「説明動画」を制作するということと、株主総会というかしこまった場であることで、どこまで盛り上げる要素や目新しい要素を取り入れて良いのか、初めは皆手探りで、何度も議論を重ねて作っていきました。3DCGでは、非現実的な世界を表現することも可能ですが、今回はあくまでも内容が分かりやすく伝わることを最優先し、多くの方に馴染みのありそうな「ニュース番組」をモチーフに、大きな窓や夜景を取り入れたステージが出来上がりました。


ニュース番組をモチーフに制作したステージ


貝塚

貝塚:また、内容の分かりやすさについても工夫が必要でした。構成や話す内容は全て株主総会運営チームで考え、資料なども用意いただいたのですが、私たちとしては、それを飽きないように、かつ分からない人の視点に立って作りました。

ーー構成はどのようにつくったのですか?


中三川

中三川:私は招集通知(※1)の作成も担当したのですが、文字だけだと分かりづらかったり、細部まで確認できなかったりすると思い、今年は見開きのカラーページを使って、株主総会全体の流れや、株主さまが事前・事後に行えることを、フロー図を用いてわかりやすく表現しています。その内容をベースにして、動画ではさらに細かい手続きもわかりやすく説明できるよう、私が大枠のストーリーを考えました。
それを元に、鮎田さんをはじめとするSR(※2)チームのメンバーに、グリーの「メタバース株主総会」への出席にあたってどういうことが株主さまにとって疑問かという視点で台本に落としてもらい、試行錯誤しながら作りあげていきました。

※1)株主総会を招集するにあたり株主に対して行う書面による通知
※2)Shareholder Relations(シェアホルダー・リレーションズ)の略称で、企業と株主との安定的な信頼関係を築くための様々な活動を指す




貝塚

貝塚:ほぼ出来上がった台本ではありましたが、REALITYメンバーからも第三者の視点として「これはどういう意味だろう?」「詳しくない人にはこの部分が分かりづらいかも」など意見交換しながら構成をブラッシュアップしました。


中三川

中三川:例えば「議決権行使」の説明パートも、「議決権行使書がどんなものか実物を出した方が分かりやすいよね」と、株式実務を担当している私たちは躊躇したり発想できなかったりするアイデアをREALITYメンバーの皆さんからたくさんもらって、視覚的にも分かりやすい動画になったと思います。


案内動画の構成は視覚的にも分かりやすく工夫を行った


中三川

中三川:今回、招集通知にもアバターのデザインを入れたのですが、私が起案したタイミングでは、法定書類である招集通知にマッチするか、株主総会運営チーム内の反応を見ても若干不安ではありました。でも長年開示書類を手がけている印刷会社のデザイナーさんから、「こんなポップなデザインを招集通知に入れることがあまりないので、新鮮で楽しい」と言っていただいて。REALITYの皆さんのフラットな意見もそうですが、株主総会という特殊な会議体においては、積み重ねられてきた実務慣行を、フラットな視点で見つめなおすような取り組みがイノベーションになることもある、という良い気づきとなりました。


左から2019年、2020年、2021年の招集通知

裏表紙にアバターの印刷があるなど、今年はデザインを一新

グループ内での協力が、新たな挑戦を可能に

ーー株主さまから反響はありましたでしょうか。


鮎田

鮎田:株主総会前に、株主総会Portalを通じて株主さまへアンケートを実施したのですが、今後完全オンラインの株主総会に期待することなどのご意見として、「とても便利になった」「オンラインでできるならそれがいい」「会場へ往復する時間が省けて便利」など、オンラインによる利便性に共感されるお声をいただきました。さらに「グリーの株主総会が、他上場会社の総会運営にも良い影響となるよう期待する」「簡単でわかりやすく、株主のメリットになることはどんどんやって欲しい」といった、未来に向けての激励のお言葉もいただいています。

ーーそれぞれの部署において、今回の協力からの学びや、今後の協力関係に期待することはありますか。


貝塚

貝塚:REALITYとしては、株主総会という慣れない領域での挑戦でしたが、業界でも新しい試みを取り入れて、関わる方々に驚きを届けることができてよかったです。今回を協力の第一歩として、今後も引き続き協力することで何か大きなものに繋げられたらいいなと思っています。


鮎田

鮎田:私も法務部にいながら動画制作という「ものづくり」が経験できると思っていなかったので、今回とてもいい経験になりました。REALITYと協力したことで、事業の現場を知る機会にもなりましたし、そういうことができるところがグリーグループのいい文化だと思います。


中三川

中三川:さまざまな企業の株式実務担当者が集まって情報交換を行う「東京株式懇話会」でも、グリーグループの先駆的な取り組みは、数年前から注目していただいています。今回もまた新たな事例を生むことができたと思いますので、これからも株主総会の実務を先導していけるよう、引き続き頑張ります。また事業部門との協力によって、「グリーグループだから実現できること」をさらに増やしていけたら良いなと思っています。


徳田

徳田:こうやってグループ内での協力体制があることで、新しい挑戦にもスムーズに取り組めていると思います。今回新型コロナウイルス感染症拡大の状況や経産省の方々の奮闘があり、想像していたよりも早く法改正が実現していますし、今後も株主総会を取り巻く環境は変化し続けていくものだと思いますが、株主さまとより良い「対話」を行うために、工夫や挑戦を続けていけたらと思います。