10周年を迎えたGBOが考えるこれからの多様性とは。10年の軌跡と新たな挑戦

2012年にグリーの特例子会社として設立されたグリービジネスオペレーションズ株式会社(以下GBO)が、今年5月に10周年を迎えました。今回は、代表である山本と、現場スタッフをサポートしてきたマネージャーのお二人に、これまでの10年を振り返ると同時に、GBOのさらなる成長に向けた取り組みや、今後の展望について話を聞きました。

山本山本:グリービジネスオペレーションズ株式会社 代表取締役社長 兼 グリー株式会社 コーポレート本部 コーポレート人事部 部長
2012年にグリーに入社。制度設計、人事ガバナンス、タレントマネジメント、HRBPなどを担当。

福田福田:グリービジネスオペレーションズ株式会社 事業管理部 事業管理第3、第4チーム マネージャー
2013年にポケラボに入社後、2016年より現職。経営管理、受託業務管理などを担当。

[名前]野澤:グリービジネスオペレーションズ株式会社 事業管理部 事業管理第5チーム マネージャー
2012年にグリーに入社、2014年より現職。採用や会社運営、受託業務管理などを担当。

GBOとは

グリーグループの特例子会社として2012年に設立。在籍するスタッフ55名中、約7割が精神・発達障がいを持つメンバーで構成されている。(2022年5月時点)事業内容はグリーグループからの業務委託を主とし、ゲームビジネスサポート(ゲームの品質管理・画像加工など)をはじめ、総務、人事、広告メディアなどに関わる内容に幅広く対応している。

「まずはやってみようか」からスタートし、試行錯誤を繰り返した10年間

ーーGBOの発足から、今日に至るまでの道のりをご紹介いただけますか。


山本

山本:GBO設立以前から障がい者雇用の取り組みは進めていましたが、グリーグループ全体が急成長する中で人材育成や組織づくりと並行して法定雇用率を維持していくことが難しくなり、特例子会社としてGBOを設立しました。当初は簡単なデータ入力やマニュアルに沿って進めるような業務が中心でしたが、発達障がいの方はゲームやPC操作に対する興味・関心が高い方が多く、ゲーム事業を基幹とするグリーの業務と親和性が高いこともあり、ゲームのQA(品質保証)業務や画像加工、市場調査などゲームビジネスのサポート業務も増え、現在は月に250種類以上の業務を受託できるまでに成長しています。


野澤

野澤:初めはどういう業務を、どの程度できるかがわかっていなかったので、「まずはやってみよう」というところからのスタートでした。最初はできなかったことも、いろいろな方法を試しながら、業務の幅を広げていったという感じです。一般的には障がい者には無理をさせずに、というようなイメージもあるかもしれませんが、誰しもが仕事にやりがいをもって成長したいという気持ちがあります。少しストレッチが必要な業務でも任せてもらえる機会やグループ全体の風土にもとても感謝しています。


福田

福田:メンバーそれぞれに得意・不得意があり、異なる得意分野を持つ者同士が協力することでひとつの仕事を完成させるということが今では当たり前になっていますが、最初は私たちもそこがわかっておらず、依頼をお断りしていた業務もありましたよね。でも、あるメンバーにとっては苦手な部分を、別のメンバーが得意としていることもあり、補い合えばいいんだということに気づいて、異なる特性を持つメンバーを組み合わせたチーム編成をすることで受託できる業務の種類が増え、精度やスピードの向上にもつながってきました。


野澤

野澤:得意を伸ばすというのはGBOで大切にしている価値観のひとつですね。嬉しかったのは、グリーグループの従業員間で「予想以上のものを仕上げてくれる」、「自分たちがやる以上に丁寧で正確だった」という口コミが広がり、GBOへの依頼が増えていったことです。


福田

福田:それもひとつの会社の中だけではなく、ある会社で引き受けた業務の評価が別のグループ会社に伝わり、そこから新たな依頼が来るということも増えていますよね。

ーー社員一人ひとりが働きやすい環境をつくるために、これまでどのような配慮をしてきたのでしょうか。


野澤

野澤:環境面と精神面の両面からの配慮を行っています。環境面では原則時間外勤務をなしにすることや、断る仕事を事前に決めていること(例えば電話応対や、短納期な仕事など)、短期記憶が苦手な方向けにマルチディスプレイを用意して、一つひとつ画面で確認しながら作業を進められるようにしたり、過集中に配慮し、昼休憩以外に15時半から15分間の一斉休憩時間を設けたり、聴覚過敏や光過敏の方は業務中のサングラスやイヤーマフの着用も認めています。
精神面の配慮も重要で、マネジメント側が正しい知識を持つ必要があるため、マネージャーは「ジョブコーチ(職場適応援助者)」という資格を取得しています。マネージャーとの面談は最低月に1回。さらに社長との面談も定期的に実施しています。必要に応じて産業医や保健師、心理カウンセラーなどの専門家に相談することもでき、さまざまな相談チャンネルを用意することで不安要素を取り除くと同時に、いつでもサポートが受けられるという安心感を持ってもらえるように努めています。一概に同じ診断名だとしてもそれぞれの特性は三者三様です。なによりもお互いに理解し合い、対話を怠らないことが非常に重要だと考えています。


山本

山本:多様性というのは、単に、障がい者、健常者を含めたいろいろな属性の方が同じ場所にいる、ということではなく、私たちは誰もが得意なこと、不得意なことを抱えていて、そのグラデーションの中で他者との違い・同一性に気づき、補い合うことなんですよね。特に社会において生きづらさを抱える各社員の「困りごと」を会社としてフォローできれば、得意なことや興味関心を活かした貢献をすることで事業成長に寄与できるんだな、とGBOで実感しています。

リモートワークでもマネージャーとスタッフが密にコミュニケーションを取ることでパフォーマンスアップ

ーーコロナ禍で皆さんリモートワークにシフトされているそうですが、何か変化はありますか。


福田

福田:オフィスに出社していた頃よりもパフォーマンスが上がっている社員が多くいます。その理由は大きく2つあり、ひとつは通勤による体力的、精神的な負担がなくなったこと。もうひとつは、対面だとどうしても生じてしまう人間関係のストレスが軽減したことです。例えば仕事を進めるうえでの質問や相談がしやすくなったことがあげられます。オフィスでは質問をしたいと思っても、相手が忙しそうにしていると遠慮して声をかけられず必要以上に時間が経ってしまうということがありました。しかし、在宅勤務だと相手の姿が見えないため、質問したいと思ったときに質問できるので待機時間がなくなり、仕事のスピードが上がっています。


野澤

野澤:一方で、在宅になると自己管理がより求められるので、体調管理や業務の進捗状況の把握などの課題もあります。同じオフィスにいれば、直接話をしてその場で確認できることも、在宅だとテキストでやり取りをすることが多くなるので、正しく伝わっているか、認識の齟齬がないかを都度、確認する必要があります。そのため、毎朝オンラインで朝礼を行い連絡事項の確認をするほか、チームミーティングを定時開催し、日々発生する小さな困りごとも先送りしないようにしています。


山本

山本:社員一人ひとりと私も定期的に1on1をさせてもらっていますが、月次で全員参加のオンライン締め会も実施しています。各チームから業務内容を持ち回りで発表する機会を作り、仕事で工夫・苦労している点・やりがいなどを発表してもらいます。他のチームの動きについてオンライン勤務では見えにくくなっていましたが、互いのことを知る機会を設け、会社の一体感をより深めたり、自分の仕事の意義を再確認する機会としていければと考えています。

ーー今後も、リモートワークを継続していくのでしょうか。


野澤

野澤:そうですね。メンバーへのアンケートを実施したところ、障がいの特性によるものも含め在宅の方が仕事しやすいという回答が多く、オンライン勤務を前提に座席数を減らすため、4月に新オフィスへ移転しました。とはいえ、出社をしたいという人もいますし、自宅でパソコンや Wi-Fiにトラブルがあった際にスムーズに業務が継続できるよう、従来のオフィス同様の環境配慮の一部を継続して行っています。


新オフィスでは電話会議ができるブースや出社したメンバーが使用できるディスプレイを設置


山本

山本:コロナ禍でリモートワークがスタートして2年になり、誰もがリモート下でも十分に力を発揮し、業務を行えるという自信をつけてきましたが、もともとGBOの業務が六本木のグリー本社で行っている業務を受託し、横浜のオフィスで行うというある種のリモート業務なので、在宅勤務に適していました。社員ひとりひとりの努力の成果という点はもちろんですが、障がいの特性によっては通勤自体が大きな負担になる(突発事象への対応が必要など)ので、そこが取り除かれたということと、マネジメントチームの力も大きいですね。各マネージャーが以前からメンバーとの密なコミュニケーションを心がけてきて、それがリモート下でも変わらずに継続できている。リモートになって慌ててコミュニケーションを取ろうとしてもこれほどうまくはいかないでしょう。自画自賛するようですが、常に全員で問題を共有して、一人では解決できないようなことも皆で協力しあって解決策を見出すことができる、素晴らしいチームです。

活動を広く発信し、障がい者雇用をけん引する存在に。真の多様性とは何かをグループ全体に発信していきたい

ーーこれから先の10年に向けて、中長期的に取り組んでいこうと考えていることはありますか。


野澤

野澤:各メンバーの中に仕事の意義や、仕事を通じて自己成長を目指すという意識ができてきているので、次の成長の機会を提供していく必要があると感じています。すぐには難しいかもしれませんが、グリーグループの各社チームに所属し、一緒に仕事をするなどそれぞれが「こうなりたい」と思う姿に近づいていけるような、キャリアアップの仕組みを考えていきたいです。


福田

福田:それは本当に大事ですね。最近メンバー達に仕事のやりがいについて質問する機会があったのですが、「成長実感」と「事業貢献」というワードが頻繁に出てきました。それを聞いて、自己成長や事業貢献を実感し続けられる環境を作ることの大切さを改めて感じました。そのためにはメンバーの成長に合わせて業務アサインを見直したり、それぞれが目指す方向性にあったルートを用意したりする必要があると考えています。



山本

山本:GBOは「障がい者が自身の能力を最大限に発揮でき、仕事を通じて自律的に成長し続けられる会社を創る」を企業ビションに掲げていますが、この事業を安定して継続していくことに、社会的な意義があると思っています。そのためにも、将来的にはグリーグループ内の業務だけを受託しているのではなく、取引先をもっと外部に広げていく取り組みも選択肢のひとつだと思っています。  
また、障がいを持ちながら社会に出て活躍できている人というのはほんの一握りで、障がい者雇用促進のためにはまだまだやるべきことがたくさんあります。例えば単純作業だけではなく、高度な業務も任せている当社の事例を広く発信し、障がい者雇用をけん引するような存在になっていきたいですね。


野澤

野澤:学校での講演活動はそのうちの一つですね。障がいをお持ちのお子さんをもつ家族や、サポートしている先生たちに私たちの事業を理解してもらうことで、社会貢献や社会に出て活躍するイメージをもってもらうことも大切だと考えています。

ーー最後に、GBOの業務はグリーグループにどのように貢献できるとお考えですか。


山本

山本:直接的なものだと、最近は「集中力が必要な業務は、GBOに任せた方が正確で、信頼できる」といった評価がグループ内で確立されています。そうしたある種の役割分担ができてきて、GBOが一定の業務を担うことでグループ各社へ事業貢献ができていると思います。
もうひとつは、「インターネットを通じて、世界をより良くする。」がグリーのミッションですが、グリーグループがサービスを届ける相手は世界中の多様な方々であり、多様性に対する真の理解がないまま、優れたサービスを提供し続けることができるとは思えません。GBOの活動を知り、一緒に仕事をする機会を持つことによって、障がい者に対する考え方も変わってくると思いますし、多様性に対する理解を深めることができるのではないでしょうか。真の多様性とは何かということを、業務を通じてグループ全体に発信していきたいと思います。