グリー広報ブログ読者の皆さま、いつもありがとうございます。広報の入山です。
ネイティブシフト戦略のもと、2014年からネイティブゲーム開発を本格化させ、今年はまさにリリースラッシュという年になっています。すべてのタイトルを成功させるつもりで開発していても、なかなかそうならないのもコンテンツビジネスの厳しい世界だと痛感させられる最近です。
とは言え、最近配信開始した「武器よさらば」「アナザーエデン」が好調な滑り出しとなりまして、少しばかり賑やかな感じになってきました。そんなゲーム開発をすすめる上で欠かせない人たちが、デザイナーなどのアートの皆さん。
今回の広報ブログでは、社内報(イントラネット版)人気コンテンツ「ものづくり頂上会議」で、グリーのアート部門を支える4人と田中が対談した回を一部修正してお送りいたします。
長﨑 二郎
コンシューマーゲーム制作会社を経て2012年グリー入社。「海賊王国コロンブス」「武器よさらば」「アナザーエデン」等のUIコンセプトデザインを担当。現在も新プロダクトを中心としたUIデザイン、アート組織のマネジメントを担当。
後藤 仁
コンシューマーゲーム制作、漫画連載などを経て、2012年グリー入社。「聖戦ケルベロス」を担当し、その後Nativeゲーム開発に移りコンセプトデザインなどを担当。現在は「アナザーエデン」に参加。
濱坂 真一郎
ゲームメーカーでデザイナーとして、主にRPGタイトルに関わる。2011年グリー入社。「ガンダムマスターズ」「新ハコニワ」「絶対防衛レヴィアタン」「消滅都市」を経て、現在は「ららマジ」のアートスタッフのマネジメントを担当中。
三浦 拓也
2012年ポケラボ入社。「クロスサマナー」「戦乱のサムライキングダム」などでアート監修を務めたのち、グラフィックチームを設立、リーダーを務める。現在はクリエイティブ部の部長をやりつつもアートディレクション等、現場作業も担当中。
自分が満足する仕事ではなく、お客さまが満足する仕事をする
田中:まず、この企画で僕は社長としてではなくサービス開発の責任者として話しています。それで製品をつくる方法論みたいなものは数多(あまた)あると思うんですが、何かしらの一貫性に基づいて製品づくりをしていかないと、「一つ一つの部品は良いんだけど、最終的にわけが分からない製品ができてしまう」と考えているんですね。だから、「我々はこういう考えでものづくりをしていくんだ」という哲学を示して、統一していこうというのがこの企画の趣旨です。
細かい話をしたいわけではなくて、「グリーで製品開発をする人はここを外したらヤバい」ということを伝えられたらなと思っています。皆さんは現場で、ものづくりについてよく言うこととか、よく聞かれることあります?
三浦:よく言ってるのが、「我々は芸術家じゃないですよ」ってことです。けっこう「クオリティーを突き詰めればいい」とか「この絵を突き詰めればいい」みたいに思い込んでしまう方が多いんです。
田中:あー。その話はこれまでも出てきましたね。僕の中ですごく大切にしているのは、「1ピクセルでもこだわって良いものづくりがしたい」という気持ちと、「それが単なる独りよがりで、生産性の無い行為になってないか」と考えることのバランスです。「永遠に見つからない洞窟で絵を描いている人」みたいに、自分のためだけに描いてるのならいいんですけど、僕たちは社会に価値が無いものを生み出しても意味がないですからね。
三浦:そうですね。我々はゲーム屋さんなので、つくっているゲームにとって適切な見た目だったりテイストをつくるのが一番です。自分の持っているセンスを無理やりゲームに落とし込もうとするのは違いますね。
田中:単に絵を売るだけなら良いけど、僕たちはゲームという総合エンターテインメントを売っている訳なので、絵が良くても音楽とマッチしてなければ世界観が崩壊してしまうみたいな話ですね。レストランで言うなら、サラダはすごく美味しいんだけど、サラダでお腹いっぱいになってもう肉は食べられないみたいな。
三浦:すごく狭い視野でやりたいことだけをやり続けても、求められていることと合っていればいいんです。でも、例えば新しいことが求められたときにできないと、せっかくのチャンスを逃してしまうことになる。だから常に視野は広くしておいた方が良いだろうし、「チャンスが来た時のために日頃から何でもアートに触れることは大事だよ」と言っています。
田中:アートっていうのは、絵のことですか?
三浦:そうですね。絵もそうなんですが、ゲームをつくっているので、ゲームそのものは必ずやるべきだし、映画からも勉強になるものがあると思います。やっぱり僕たちの開発の先には常にお客さまがいて、そのお客さまが欲しいと思っているものはどんどん移り変わっていきます。そこで満足してもらえる提案ができないのは一番良くないですね。
田中:僕もよくそういう話をしてます。みんな自分のやりたいこと、つくりたいものは当然あると思うんですけど、何をつくっても億単位の値が付くとか、どんなイラストを描いても売れてしまうとかなら、「どうぞあなたの好きなように」って感じですけど、そんなの世界に数人レベルの話ですよね。僕たちはやっぱりお客さまに満足してもらうための仕事をしているので、マーケットインから始めて技術なり知識なり経験、信頼を高めながら、徐々に自分のやりたい方向に近づいていくのが職業人としてのまっとうなプロセスだと思いますね。
優秀な人は、お客さまが欲しいものや社会の変化にビビッと気付ける
長﨑:私はUIデザインをやっているのですが、よくスケジュールの見積もりとか、力の入れ具合が分からないって聞かれます。そういうときは、「人の感情が一番高まるところを重視して工数を掛けると、けっこう効率的に質が上がる」ってアドバイスをします。
田中:それ面白いですね。
長﨑:UIって制作するパーツ類が多岐にわたるので、それを一つ一つ全力でつくると時間ばかりかかって、本当に見せたい狙いどころが分かりにくくなるんです。だからコンテンツとして、「何を伝えたいのか」とか、「最終的にどういうふうにお金払っていただきたいのか」みたいなところを意識しつつ、時間をかけるとこ、かけないとこのメリハリをつけることを意識しましょうと言ってます。
田中:経済学に「限界効用」という言葉があって、例えば1杯目のご飯と2杯目のご飯で得るエネルギーは同じだけど、美味しいという満足感は1杯目から2杯目と増えるごとに減っていくみたいな話です。つまり経済学的には、食べる人がご飯に掛けるお金と、美味しかったという見返りが均衡するところまでは提供すべきだけど、見返りが無いと思われてるのにご飯を提供するのは無駄な行為であると考えるわけです。
ガチャの部分が一番満足してもらえるならUIを5倍にすると5倍の効用があるかもしれないけど、お知らせの画面をすごいリッチにしても、ガチャほどの効用があるわけではないから、そこにすごいリソースを投下するのはかなり無駄で非効率となります。
長﨑:そうですね。少ない投資で多くの効果を生むための知識を蓄えることが大切です。例えばデータ量や制作スケジュールが決まっているゲームの地形って、「マップチップ」と呼ばれる小さな素材を組み合わせることで、多種多様な地形を生み出しているんですね。汎用性や拡張性が見込める仕組みを作って、少ない工数で物量的なバリエーション感を高めることがすごく大事だと伝えています。
後藤:僕もキャラクターとか背景を描くときにそういう話をしますね。例えば背景なら、「ビルがあって、雲があって、鳥が飛んで……」みたいにいろいろ描き込み過ぎちゃうと、ユーザーはどこを見ればいいのか分からなくなってしまう。だからビルならビルと見せたい場所を絞って細かく描いて、ビル以外は暗くしたり、空にして“抜き”を作ったり、目線をビルに誘導させるように考えて効率的に描く方法をとります。
「アナザーエデン」だと、キャラクターは2Dで動かすので、表面・側面・背面の三つのパーツを作るんですが、背面って見える瞬間が少ないので、表面・側面よりは情報量とか書き込みの丁寧さで調整が効きます。「手を抜く」と言うと言い方が悪いですけど、いま作業をお願いしている若い子たちには、そういう手の抜きどころを見極めることが大事だよと伝えています。
ただ経験しないと分からないことでもあるので、顔をがんばって描いたら「生き生きしてていいね」と言ってもらえたのに、背中をがんばって描いても何も言われなかったみたいな試行錯誤をする中で理解してもらえるといいかなとは思っています。
長﨑:アートってつくる側からすると自分の子供と等しい部分があって、思い入れがあるんですよね。その反面、ドライに見てあげる目線を持たないと、思い入ればかりで終わりが無かったり、時間が無くてリテイクできなかったりってことが起こるので、こだわりとお客さま目線で冷静に判断することを両立させるバランス感覚は大事ですね。
田中:僕が製品開発をするときに常々意識しているのは、「お客さまが求める製品レベルってどこなんだろう」ってことなんです。本質的に製品レベルは高ければ高いほど良いに決まってるんですけど、40%くらいの完成度で「十分ですよ」ってなる場合があれば、「いやいや、70%はないとダメでしょ」って場合もある。どのくらいの完成度なら良いかって自分なりにイメージを持って、「これくらいなら工数はこれくらいだ」とか、「これくらいまでないと意味ないから、これだけの工数をかけるか、そもそも企画を止めるか」みたいなのを考えていくわけです。
そういう「工数の読み」が重要なんですけど、けっこう見誤ることってあると思うんですよ。まったく読めない人だと、お客さまとか世界から求められていることが分からぬままに、無秩序に「100%を目指せ」とか、テキトーに「半分くらいでいい」とか設定しちゃうから効率が悪かったり、出たとこ勝負の製品づくりになったりしてしまう。だから、僕がクリエイターとしてイケてるなと思う人って読みが当たる確率が高くて、非常に効率の良いものづくりをする人だと思ってます。
長﨑:料理に例えるとけっこうわかりやすくて、美味しいものを全力で作りたいというのはみんな一緒なんですけど、それがファミレスの料理なのか、高級懐石なのかってゴールを、ちゃんと見定めないといけない。
すごい高級な食材でB級グルメを作ってもコストが跳ね上がっちゃうし、せっかくの食材を生かせず大して美味しくないものができてしまうかもしれない。そこを見定められる人がやっぱりちゃんとしたクリエイトができる人なんだろうなというのを感じますね。
田中:40%くらいの完成度で良いと思って作っていたけど、気付いたら世間は60%でないと納得しないから、「やべえ、60%だ」って、そういうのをビビッと感じられるのも大事ですね。それができる人は本当に優秀な人だと思います。そういう人こそが、時代とマッチして「当てられる人」ですね。
キャラクターデザインのコツは「機能の定義」と「服装の工夫」
濱坂:僕は何回か「キャラクターデザインのコツについて教えてください」って聞かれたことがあります。
一同:あー。
後藤:自分で絵を描く方がよく聞いてきますね。
田中:コツは何なんですか。
濱坂:じゃあ、いいですか、ちょっとホワイトボードを使います。
一同:おおー。
濱坂:キャラクターをデザインするとき、純粋にかわいいキャラクターや、かっこいいキャラクターを目指すのではなく、機能から落とし込んでいくというやり方があります。
田中:へー。
濱坂:例えば「消滅都市」って横にスクロールしていくゲームです。そうするとキャラクターの動きに合わせて、髪とかワンピースとか風になびくものがあるとスピード感が出て映えますよね。次に序盤の背景は夜のシーンが多いので、「白い服を着せた方が目立つでしょう」ということで白にします。今度は黒い髪だと夜景に溶け込んでしまうので青く塗り、「差し色としてリボンを赤くしましょう」という感じで、実は感覚ではないところで決まっていきます。
田中:へー。面白い!
田中:僕は最近、数人のチームで新しい女性向けのサービスを考えているんです。そのサイトの色を決める会議で、メンバーは最初、黄色が良いんじゃないかと話していたんですけど、「女性向け雑誌を買ってきて、何色が多いのか全部調べろ」って指示を出したんです。それで、女性誌ってピンク色のイメージがあると思うんですけど、美容のページになると突然、青が増えるんです。肌の色をきれいに見せるとか、透明感を出すって意味では青の方が良いのかもしれない。そして黄色はものすごく少なくて、メンバーも意見が変わって、「青かな」「ピンクかな」みたいな話になったんです。
最終的にどの色が良いかは合理的に突き詰められないから、最後はセンスとか感情論に移行すればいいと思うんです。でも、始めから「俺が直感で決めてやる」みたいにしちゃうと、グリーの「ロジカル×クリエイティブ×スピード。」とは全然違うことになってしまう。調べられることはちゃんと調べて先人の知恵を参考にしつつ、それでも分からない部分はクリエイティブに決めていこうというのはすごく賛成です。
濱坂:似てますね。肌をきれいに見せるから何色という話はまさに機能から落とし込むやり方だと思います。僕もそうやって決めていきました。
田中:そういう論理的なプロセスと、思い入れで決まる部分のバランスが取れていないと、良いものづくりはできないと思いますね。ただ、キャラクターデザインって、まず「目を大きく描けばいい」みたいなところから始まると思っていたんですけど、違うんですね。機能的に求められているものを外し始めると作品として良いものができないので、「まずは何が求められているのかを定義しましょう」ってことですね。
濱坂:そうです、そうです。まず、その「機能を重視しましょう」というのがあります。それから、キャラクターデザインってみんな顔の造形とか体形とかを想像すると思うんですけど、大事なのは服装のデザインなんですよ。
田中:ほうほう。
濱坂:例えば吉田 明彦さんという「リトルノア」のキャラクターデザインをされている方がいるんですが、あの方は服装に工夫を凝らされてますね。
田中:絵っていうと漫画をイメージしちゃうからなのかもしれないですけど、やっぱり顔が一番重要な気がするんです。漫画とゲームは違うってことなんですかね。
後藤:もちろん顔も大事なんですけど、顔って流行りがあるんですよ。今だと「グランブルーファンタジー」が流行りを作っていて、似たような顔のキャラクターが求められる。だから顔は工夫っていうより、流行りに合わせたものが描けているかどうかが大事です。その上でオリジナリティーとかゲームの味みたいな部分の工夫が、服にあるってことですね。
長﨑:そうですね。そこは漫画も違いないと思います。例えば「ドラゴンボール」って顔だけ見ると悟空も悟飯も一緒じゃないですか。でも悟空は亀仙流の道着を着ていて、悟飯はピッコロの道着を着ている。その服装だけで、どの武術の流派に属しているかとか、キャラクター性が明示的になっているわけです。
グリーのアートはどんな人を採用したいか
濱坂:よく後藤さんと採用面接の話をするとき、「上手い絵」と「売れる絵」の二つの目線で語ることがあるんです。二つとも両立するといいんですけど、下手なんだけどこの絵は商品として強い気がする。という事がしばしばあります。
後藤:そうですね。雑なんだけど、グッとくる。
田中:なになに、それすごい気になる。
三浦:よく「ノイズ」って言われますね。綺麗なんだけど、そこにある一定の「ノイズ」が乗ってる人は、「売れるな」「流行るな」って思わせるものがある。そういうのはやっぱりクリエイター目線だと割と感じやすくて、ピンときますね。
後藤:そうですよね。あと採用という目線では「嫌われない絵を描いているか」ってのはすごく重視してます。多くの人に嫌われちゃいそうなアクの強い絵は、自分を抑えきれないというか、流行りをちゃんと取り込めてないって判断します。
田中:漫画だと「ナニワ金融道」みたいにアクの強い絵でも売れちゃうから、同じ絵でもゲームのつくり方は違うんでしょうね。
後藤:そうですね。「どういうアイテムが出て欲しいか」っていうところで、世界観にそぐわない独創的すぎる絵のキャラクターが並んでいても、みんなが集めたいとは思わないですよね。
濱坂:ゲームは絵だけで売っているわけじゃなくて、体験を売ってますからね。例えばあるキャラクターに人気が出たとして「このキャラクターデザインだから売れたんだ」という結論にはなかなかできないです。そんな単純な話ではないので、「アーティストとしてどれだけクールになれるのか」というのも大事だと思いますね。
三浦:狙ってちゃんと落とし込めてるかってのは大事ですね。
もっと言語化して伝えることを磨いていかないといけない
田中:じゃあ、最後に感想ありますか?
後藤:意外に食べ物の例えが分かりやすいなと思いました(笑)。
田中:そうそう、僕はよく食べ物のたとえ話をするんですけど、「美味しくない料理にお金を払いたくない話」っていうのがあるんです。美味しくない料理が出てきたとき、「こんなのに1円も払いたくないよ」って思いますよね。でも、自分が逆の立場だったら「こんなにがんばって作ったのになんだよ」って思うわけじゃないですか。
労働の対価としてお給料をもらうのは当たり前なんですけど、お客さまが「1円の価値もない」とお金を払ってくれなければ、じゃあどこから対価が生まれるのかっていう矛盾が生じる。もちろんその矛盾を解決していくのが経営陣の仕事なんですけど、「これを作ればこれだけのお金がもらえる」っていうのが明らかなビジネスと違って、楽しさとか体験を売るビジネスではありがちな矛盾なんですよね。
長﨑:私は普段ものはつくっているのですが、ものづくりそのものの話をする機会があまりないので勉強になりました。あとは田中さんの「自分が分からないことを知りたい」っていう欲求をすごく感じた時間でした。
田中:分からないことを解明して、再現して高速化したくなる衝動に駆られます(笑)。
三浦:まだまだ感覚で話してた部分があったと思うので、そういうのを絵描きじゃない人にも伝えられるようにしていくことが僕たちの使命だと思いました。
濱坂:そうですね。絵描きと呼ばれる人たちは、必ずしも説明が上手な訳ではないので、もっと言語化して伝える術を磨いていかないといけないですね。
田中:抽象的な指摘をして、「そんなに言うなら、自分が描いてみろよ」とか思われたり?
長﨑:それはありますよね。だからこそ、フィードバックを返す時の的確さが最も重要です。ここがちゃんと理にかなったものであれば、ちゃんと聞いてくれると思います。
田中:そうですね。僕としても、まだまだ「売れる絵」と「売れない絵」の違いが分かってないので、それぞれ見比べて理解してみたいですね。感覚論で理解しないと分からない部分もあると思うので。今度ぜひ教えてください。
今日はありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。グリーの考える「ものづくり」に対する思いが伝われば幸いです。イントラネット版社内報で取り上げた企画に今後もご期待ください。
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