“逆境こそ面白い。そこに成長がある。”
2004年12月の創立から5年ほどで東証一部に上場し、現在は時価総額が1500億円、年間700億円近い売り上げを出す大企業。それが、グリー株式会社だ。結果だけを見て、急成長して成功した会社だと結論付けるのは簡単だが、グリーにとって順風満帆と言えるのはほんの数年のこと。その歴史をひも解けば、ほとんどは厳しい逆境の時代だった。4人目の正社員、かつ新卒第一期生として参加し、そんな時代を何度も経験し、今も最前線で戦い続けるのが、取締役 執行役員を務める荒木 英士氏だ。
荒木氏は入社当時をこう振り返る。
「2005年に4人目の正社員として意気揚々と飛び込んだものの、そんなに簡単じゃなかったというのが最初の1年です。当時はSNS『mixi』が破竹の勢いで伸びていて、PCのSNS『GREE』は伸び悩むどころか下がり続けていました。いろいろな新機能を出したり、新サービスを出したりしたのですが、なかなかうまくいきませんでした」
転機が訪れたのは2006年の秋。モバイル版SNS「GREE」のリリースだった。
「事業がうまくいくときとか何か歴史が動き出すときって、『キタッ!』という瞬間があるんです。それは新しいプロダクトをリリースした初日かもしれないし、ゲーム内のイベントをリリースした日かもしれない。この、『キタッ!』という瞬間を味わうのが快感なんです。僕は、その感覚を味わうことが仕事の楽しみになっています。最初に味わったのが、モバイル版『GREE』をリリースしたときでした。
思うのは、やっぱり逆境こそ面白いということです。グリーはその歴史の中で、うまくいっていない時間のほうが圧倒的に長い。大事なのは、うまくいっていないときに挑戦を諦めず、どう努力するかということです。考え尽くして、努力し尽くして、『キタッ!』という感覚を味わえる瞬間までたどり着く経験が、自分を成長させたと思えるし、何より、すごく楽しいことでした。グリーで働く人には、どんどん挑戦して、この『キタッ!』という感覚をたくさん味わってほしいなと思っています」
“VR専門の開発部隊「GREE VR Studio」誕生”
「SNS」、そして「モバイルゲーム」と未知の領域に挑み、先駆者としての成功を収めてきたグリー。次に挑むのは「VR」だ。2016年末、世界有数の経営コンサルティング会社「A.T.カーニー」は2017年に起こり得る10の重大な出来事を予測し、その一つとして「バーチャル・リアリティが前例のない規模で、ゲーマー以外にも普及」という項目を挙げた。
「モバイル技術はゲーム体験を、以前は縁の無かった層にまでもたらした。(中略)同じように、VRがモバイル機器にも使われるようになることで、2017年にはより幅広い層が、この以前はニッチだった技術に触れるようになり、顧客は様々な機器に関心を持つだろう。(中略)2016年がVRのブレークスルーの年なら、2017年はホリデーギフト用のリストのトップに、ローエンドのモバイル機器用のVR製品が並ぶ年となるだろう」(『Year-Ahead Predictions 2017』より)
日本でも2016年は「VR元年」だと呼ばれ、さまざまな企業が先駆者となるべく名乗りを挙げた。しかし、その中にグリーはいない。なぜならグリーは、それ以前から「VR」技術に注目し、取り組みを始めていたからだ。経営陣の中で最初に注目したのは、最高技術責任者の藤本 真樹氏だった。
「グリーはものづくり企業だから、当然、新しい技術の研究が欠かせません。それは今あるプロダクトやサービスをより良くするためでもあるし、新しいものを開発するためでもある。2015年くらいにAI(人工知能)やVRが面白そうだなと思って調べ始め、誰かVRに事業として挑戦してくれないかなと話していたら、英士(荒木氏)が手を挙げてくれたんです」(藤本氏)
ネイティブゲーム開発でも陣頭指揮を執る荒木氏だが、その視野は広く、常に未来を見据えている。
「10年、20年先の未来を考えたとき、いずれ脳に回線を直結して神経に直接アクセスする世界が来るだろうと思いました。『それをもたらすのがVRだ』と言うのは短絡的ですが、インターネットの先の情報と視覚・聴覚が直接繋がり、一人称視点で情報にアクセスすることができる、その未来へ至る最初のステップがVRだということは間違いありません。スマートフォンの次に来るプラットフォームは、VRだと確信しています」(荒木氏)
未知の技術を前に誰もが挑戦者であるとは言え、グリーに勝算はあるのだろうか。荒木氏は自信を持って答える。
「VRは今後さまざまな分野に応用され、生活を変えていく可能性を秘めています。しかし、市場として見たとき、短期的に中心となるのは間違いなくゲームです。2007年に世界初のモバイルソーシャルゲーム『釣り★スタ』をつくり、その後も新しいプラットフォームで新しいゲームの形を提案し続けてきたグリーには既存のフォーマットにとらわれない企画・開発力の蓄積があります」
荒木氏は2015年4月に数人のプロジェクトチームをつくり、半年後に開催された東京ゲームショウで謎解き脱出ゲーム『サラと毒蛇の王冠』を出展させた。それまでVRゲームは一人プレイが一般的だったのだが、同作品は二人で遊ぶソーシャルVRゲーム。ソーシャルに強いグリーならではの作品を体験しようと来場者が行列を作り、最大で100分待ちになった。そして確実な手応えを感じた荒木氏は、直後の11月、正式にVR専門の開発部隊「GREE VR Studio」を立ち上げる。
「グリーはVRに対して『企画・開発力』『パートナーシップによる事業展開』『スピード感』という三つの強みを持っています。これまでにGREE VR Studioからリリースした作品はどれも評価を得ていますし、モバイルゲームの開発で培ってきたIP(マンガやアニメ、ゲームなどの版権)活用や他業種との提携ノウハウと信頼関係も強みとしてあります。スピード感としては、昨年8月にアミューズメント施設を運営するアドアーズと業務提携を発表しましたが、4カ月後には同社の新施設に共同開発したゲーム機を提供している例(※)が挙げられます」(荒木氏)
※グリー、アドアーズ初となるVRエンターテインメント施設「VR PARK TOKYO」にて、対戦や協力ができるマルチプレイVRゲームを新設
“グリーが日本最大の「VRサミット」を開催”
VR市場は荒木氏が語る通り、短期的にゲームが中心となるのは間違いない。しかし、その先にあるのは観光・医療・住宅・報道・広告など、多方面の産業への普及だ。だからこそインターネット企業であるグリーの取り組みはゲームに限定されていない。
2016年5月、東京・品川で日本最大のVRイベント「Japan VR Summit」が開催された。国内外で活躍するVRプレーヤーの話を聞こうと最大500人収容の会場は満員御礼。参加費3万円のイベントでありながら立ち見がでるほどの盛況となり、日本国内でもVRに強い関心が集まっていることが改めて証明される形となった。この「VR元年」を象徴するようなイベントの主催者がグリーであるとなれば、仕掛け人が荒木氏であることは想像に難くないだろう。
「イベントを主催した理由は2つあって、『多くの人にVRの魅力を実感してもらいたい』『グリーは市場の発展を待つのではなくだけでなく、自ら市場を加速させることに貢献したい』と考えたからです」(荒木氏)
荒木氏はグリーの米国ゲームスタジオをゼロから立ち上げ、黒字化に導いた中心人物でもある。世界を肌で知る荒木氏だからこそ、日本がVR市場で遅れをとっている状況には誰よりも苦々しい思いを抱いていたに違いない。このままではVRという技術革新の波に日本が乗り遅れてしまう。国内で小さな戦いをしていても意味がない。戦うなら、世界だ。「Japan VR Summit」には、そんな荒木氏の思いが込められていた。思いは形となり、VR市場における世界有数のハードメーカー「HTC」「Oculus」「ソニー」の3社がJapn VR Summitにて一堂に会した。中立な立場として、市場の健全な成長を願うグリーだからこそ実現できたイベントだ。半年後の2016年11月には、さらに規模を拡大した第2回が開催された。
“米国VRファンド設立でグリーが示す存在感”
なぜグリーは国内に限らず、海外のプレイヤーとも強固なパイプを持っているのだろうか。その答えはVR専門のファンド「GVR Fund」にある。グリーがGVR Fundを設立したのは2016年4月のこと。Colopl VR Fundやミクシィも参加し、ファンド規模は1500万ドル(約17億円)に上る。GREE VR Capital, LLC(GVR Fundの運営母体)でCEOを務める筒井 鉄平氏は、北米に拠点を置く理由をこう語る。
「北米はVR関連のマーケットが活発で、ゲームに限らずアイデア・技術の最先端など、さまざまなイノベーションの種が転がっています。これを誰よりも早く拾わなければいいけない。グリーは2011年からゲーム事業を展開するために米国進出をしていましたので、地道に築いた信頼関係やコネクションがあります。そして投資の可能性もあるとなれば、より多くの企業が私たちに情報提供をしてくれます。GVR Fundを立ち上げた時点で老舗のファンドはまだ動き始めていなかったので、VRに取り組む多くのスタートアップ企業と会うことができました。投資をすることで将来性のある企業を育てていくのはもちろん、日本へVRに関する最新の情報を伝えることが重要な役割だと考えています」
GVR Fundの投資実績としてまず挙げられるのはVRソーシャルプラットフォーム「VRChat」への出資だ。VRChatは、ユーザーがアバターを介して仮想空間で他のユーザーとコミュニケーションできるサービスである。「アバターを介したコミュニケーション」とだけだと新しさを感じないかもしれないが、「自分の手足を実際に動かしながら仮想世界で非現実的なコミュニケーションをする」という想像の範疇を越えたコミュニケーションは、体験してようやくその可能性が理解できるようになる。グリーがいち早く可能性や価値に気付くことができるのは、SNS「GREE」を生み出し、世界初のモバイルソーシャルゲームを創り、東京ゲームショウで先駆けてソーシャルVRゲームを披露した積み重ねがあるからに他ならない。
また、GVR FundはVRの最新情報を国内に伝える機能も担っている。例えば米国のNBAなどのライブストリーミングVR映像を手掛けるNextVRが2016年2月にFOXスポーツと業務提携すると、その3カ月後にはグリーがフジテレビと業務提携し、VR映像分野での日本初の共同プロジェクトをスタートさせている。この素早い判断の裏には、GVR Fundの存在があるのだ。
「北米のベンチャー界隈は決定のスピード感が日本と比べものにならないくらい高速です。しかし、日本も負けてはいられない。私たちのミッションは、北米の情報を伝え、国内の専門部隊が世界と戦うためのサポートをすることだと考えています。VRが巨大マーケットになったとき、その中心ではグリーが存在感を持って立っているはずです」(筒井氏)
VR専門の開発部隊「GREE VR Studio」、日本最大のVRイベント「Japan VR Summit」、そしてVR専門のファンド「GVR Fund」。それらは一つ一つの点にしか見えないかもしれないが、グリーにとってはすべてがつながった未来への線である。グリーはこれまで培ってきた強みを最大限に生かし、VRという未知なるプラットフォームにおける事業創造に取り組んでいる。
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荒木 英士
2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後、大学を卒業し、4人目の正社員、かつ新卒第一期生としてグリー株式会社に入社。事業責任者兼エンジニアとして、PC向けGREE、モバイル事業、ソーシャルゲーム事業(「踊り子クリノッペ」等)、スマートフォン向けGREE等の立ち上げを主導した後、2011年、GREE International, Inc.(現:GREE International Entertainment, Inc.)(米国)の設立に参画し、SVP, Social Gamesを務める。2013年9月に日本に帰国し、グリー株式会社 取締役 執行役員に就任。
藤本 真樹
取締役 執行役員常務 最高技術責任者。2001年、上智大学文学部を卒業後、株式会社アストラザスタジオを経て、2003年1月有限会社テューンビズに入社。PHP等のオープンソースプロジェクトに参画する。2005年6月、グリーの取締役に就任。
筒井 鉄平
VR Capital事業部 部長、GREE VR Capital, LLC.代表取締役社長。三菱商事、モルガン・スタンレーを経て、グリーに参画。現在は、海外VR投資ファンド関連業務、グリーの事業に関連する海外投資市場・案件などに関連する業務を担当。
本件に関するお問い合わせ先
- グリー株式会社 広報担当
- 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー
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