グリーグループの役員に、事業や個人のことなどをインタビューする本企画。第3回は、ポケラボ代表取締役社長の前田悠太さんです。
【プロフィール】
グリー株式会社 取締役 上級執行役員 兼 株式会社ポケラボ 代表取締役社長
前田 悠太
ベンチャーキャピタルを経て、2009年7月より株式会社ポケラボ取締役CFO、2011年12月より株式会社ポケラボ代表取締役社長に就任。2012年11月にM&Aでグリーグループに参画。2013年9月よりグリー株式会社取締役を兼務。Pokelabo・Asia事業管掌。弁理士。
株式会社ポケラボ
「ソーシャルアプリで世界と人を変える」をミッションに、モバイルソーシャルアプリの企画・開発・運営を行っている。「アサルトリリィ Last Bullet」「SINoALICE(シノアリス)」「戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED」を展開し、幅広いファンから人気を誇る。今年7月1日より「SINoALICE(シノアリス)」を世界139の国と地域に配信開始するなど、海外展開にも力を入れている。
モバイルゲームの老舗
ーーポケラボのこれまでの歴史について教えてください。
前田:創業は2007年で、「ソーシャルゲーム」という言葉が生まれる前のガラケーの勝手サイト時代からずっとモバイルゲームの開発だけを続けています。その頃、海外ではFacebook上のPC版ゲームアプリが急激に盛り上がり、日本ではmixi、GREE、MobageなどのモバイルSNSプラットフォームがオープン化へと動き出す時でした。その後スマートフォンが登場し、モバイルソーシャルゲーム市場が世界で拓かれて今に至ります。その間、プラットフォームや環境の変化に合わせながら、一貫してモバイルゲームの開発・運営を行ってきました。この業界では、もはや老舗かもしれません。
ーー激しい競争の中で、ポケラボが生き残ってきた秘訣は何でしょうか。
前田:まぁ「運」です(笑)。 栄枯盛衰が激しすぎるこの業界で10年以上生き残れたのは妙に強運だったからでしょう。
あとは、「変わらない」と「変わり続ける」のバランスも一因かと。たとえば、会社のミッションである「ソーシャルアプリで世界と人を変える」というのは、創業当時からずっと変わっていません。幼い頃からゲームに魅了されゲームクリエイターになったメンバーたちは、自分たちが感じてきたゲームで世界が変わった瞬間をつくる側にいます。こうした価値観はずっと大切に持ち続けている一方で、プラットフォームや環境の変化によって、必要な体制やツール、つくり方は臨機応変に変えてきています。大事にしている想いはぶらさず、状況に応じて変えるべきところはどんどん変えていく、その辺のバランスが結果としてポケラボらしさにもなっていると思います。
ーーポケラボならではの事業戦略を教えてください。
前田:戦略の一つに「エンジン戦略」があり、自分たちが得意なものや、「らしさ」を研ぎ澄ますことにフォーカスしています。具体的には、「GvG(多人数 対 多人数で戦うバトルシステム)」と「シナリオRPG」という2つのゲームエンジンをいかに磨いていくかに注力しています。「らしさ」を研ぎ澄ませていくと、お客さまや、さまざまな業界のプロデューサー、版元の方々にも「ポケラボといえばこうだよね」という認識でのお付き合いができます。
もう一つは「上位プロデュース」です。原作者の方や作家の先生、あるいは製作委員会等と密結合し、ゲーム内外でファンの方々により喜んでもらえる作品となるよう連携していくことを大事にしています。
「好き」は才能
ーー採用ではどんな社員を求めていますか?
前田:その人なりの「○○が好き」という気持ちに立脚した個性に注目しています。特にこの業界においては、絵やプログラミングが上手であることと同じくらい、「好き」の気持ちが強いことは一つの才能だと思ってます。好きだから見えるものがあるし、こだわれるしあきらめない。会社は“才能の増幅装置”という側面があり、「ポケラボらしさ」というのはメンバー一人ひとりの個性の紡ぎ合わせでしかないからこそ、何か際立つ個性を持っていたり、まだ個性になっていなくても「こうなりたい」と明確にあったりする方を意識的に集めています。社内はオタク心溢れるメンバーが多いです。
ーーマネジメントで心がけていることはありますか?
前田:皆個性があって素晴らしい才能や意思を持っているので、沢山ある個性のベクトルを合わせて生かしきるのが理想だと考えています。その手段として、できる限り明確にフレームワークを示すことを意識しています。たとえば「好きに絵を描いてください」ではなく、「このキャンバスにひまわりを描いてください」というフレームワークを設けることで、その個性の集合体で出来上がる作品は大きく変わります。自分たちの強みや能力を正しく把握し、今の市場環境の中で何をどの程度やるべきかの適切なフレームワークを設け、そこで思いっきり個性を発揮してもらう。これがゲームという総合芸術をつくり上げるという事業において重要なことだと思っています。
世界を驚かせる
ーーご自身の管掌部門と、最近のトピックスを教えてください。
前田:ポケラボでのゲーム開発・運用と、グリーグループのタイトルの中華圏を中心とした海外展開を担当しています。あとはさまざまな企業さまと資本・業務提携等もさせていただいています。bilibiliさんと提携して中国展開したり、ブシロードさんと一緒にゲームやアニメを作ったりとかですね。直近では7月1日に「SINoALICE」のグローバル版を139カ国にリリースすることができ、非常に好評で嬉しい限りです。
ーー海外展開ならではの難しさはありますか。
前田:沢山あります。たとえば中国は日本とは違うさまざまなハードルがあります。ここ5年ほどで中国のスマホゲーム市場の規模は、日本も北米も超えて世界No.1と魅力的な市場ですが、そこへ良い形でリリースすることすら容易ではありません。まず、中国国内での配信には中国政府が認可する「版号」というライセンスが必要なのですが、審査だけで数年かかる状況で「アナザーエデン 時空を超える猫」や「ダンまち〜メモリア・フレーゼ〜」も数年かけてようやく審査をクリアすることができました。また、版号を通過しても、中国にはプラットフォームが数多くあるため、どこと組んでゲームをどう提供するかも重要です。さらには中国国内のゲーム会社の開発力と生産力は、日本のそれを超えてきている実情もあります。こうした状況下でも「日本のゲーム」を待っているファンの方々は非常に多いので、そういった方々に届けるべく、同じ思いの中国企業さまと密接に協力しながらリリース準備をしています。
マラソンしていくために必要なもの
ーーポケラボは2012年にグリーグループの一員となりましたが、グリーグループの強みはどこにあると感じていますか?
前田:大きく3つ、1つ目は総合的な守備力の強さです。堅牢なインフラ構築力やQA・審査フローなどがわかりやすいですが、さまざまな経験をしてきたからこそノウハウが着実に積み上がっていることです。2つ目は、以前この企画で大矢も話していましたが、長期的な視点で戦略を描ける環境があることで、業界を見回しても同じような会社は少ないです。スマホゲーム業界も成熟期を迎え、長期開発・運用が当たり前の時代になってきているからこそ、ゲームクリエイターも、腰を据えて長期的に自分の「らしさ」を研ぎ澄ませていかなければ消費され埋没してしまいます。そういった意味でも長い目で仕事と自分に向き合える環境があるのは非常に貴重です。3つ目は、「好き」という気持ちを尊重する文化があること。わかりやすい象徴が創業者の田中です。彼も小さい頃からゲームにまみれた生活をしていてゲームが大好きなのですが、だからこそ10年後も20年後も飽きずにゲーム事業を続けたい、と真面目に語ります。そういうまっすぐな想いを事業の存在理由の根幹とする文化がグリーグループの基盤にあるからこそ、一人ひとりの個性を尊重する文化にもなっているのだと思います。
ーー田中さんとは普段どんなことを話していますか。
前田:よく話すのが「何が積み上がるか」ということです。これからやろうとしていることが仮に失敗したとしても、次のチャレンジの成功確率が上がるなら100%やる意味がないとは言い切れないし、ノウハウを含めて何が積み上がるのか、どうしたら積み上げられるのか、何が資産になるのか、ということを徹底的に話し合っています。もう一つは、メタな比較を探す議論。メタ的な視点で何がベンチマークになるか、何が参考になるかを話し合い、差分を見極めて建設的な議論に落とし込んでいく感じです。
ーー印象的なエピソードはありますか?
前田:先日GvGのシステム改良の話をしていた時に、あるTCG(トレーディングカードゲーム)が話題に上がりました。翌日、田中がそのTCGシリーズを買い込んできて「今からできる?」って急に呼ばれまして。そこから数時間、他のスケジュールを全部すっ飛ばし(笑)、一緒にそのTCGをしながら議論する出来事がありました。ゲームが好きだからこそちゃんと理解したうえで議論したいという、田中らしいグリーグループのゲームづくりの象徴的なシーンですね。田中は私が来る前に朝からYouTubeを見ながら一人で研究していたらしくて(笑)、本当に好きなんですよね。
ファンの期待を超えた分が自分たちの価値
ーーポケラボが大事にしている“「らしさ」を研ぎ澄ます”の先に、どんな未来を描いていますか。
前田:もっともっと期待されるポケラボになりたいですね。ゲームシステムはさまざまな仕組みから成り立っていて、クエストの面白さや敵の強さのコントロールなど、その仕組みごとにノウハウがあります。これらを運用していく中でお客さまの反応を見ながらPDCAを回して積み上げていくわけです。秘伝のタレが煮詰まってどんどん濃くなっていくように、1作目よりも2作目、2作目よりも3作目のほうがゲームシステムがより深く濃くなり、自分たちの「らしさ」が研ぎ澄まされていきます。そうするとゲームシステムの開発や運営自体も効率化されていくので、同規模予算でもシナリオやアニメーションなどコンテンツ部分にお金をかけられるようになり、よりファンの心に刺さるものができます。これがエンジン戦略の裏側の一面ですが、「らしさ」を研ぎ澄ませることで、ファンの期待に応え、そして超えていくことにこだわり続けていきたいです。
ーー期待を超えたらまたさらにファンの期待は上がり、より高いレベルのものづくりが求められますね。
前田:「ファンの期待を超えた分が自分たちの価値」だといつも言っています。スマホゲームはお店を開いて終わりではなく、開店してからがスタートで、運用がある意味本業なわけです。そもそもファンの方々は最初から高い期待を持っていて、運用を続けていくと「もっともっと」と期待値は上がっていく。その期待値を超えた分が自分たちの価値だと考えると、運営しているゲームクリエイターの目線も上がっていき、長期運用をしていくと自ずと成長します。そういう意味でも、長期運用を続け、ファンの期待を超え続けられているかという視点をすごく大事にしています。
ーーポケラボを含めグリーグループとして、今後どんなことにチャレンジしていきたいですか。
前田:世界中のお客さまにとってなくてはならないものや、心から喜ばれるものにしていきたいという想いがあります。何十万人、何百万人に自分たちがつくったものを届けることや、さらにその先を想像するとすごくわくわくするんです。例えば、日々の生活がすごく大変だったとしても、自分たちのゲームやサービスで遊んでいる時だけは笑ったり楽しんだりしてもらえているのなら、その瞬間、その人の世界はいつもとは少し変わっているはずです。そういう光景を想像して逆にニヤニヤできるのがこの仕事の醍醐味。せっかくやるなら世界を驚かせるものづくりがしたいし、それができる環境もチャンスもあるので、挑戦しない理由がないですよね。好きだからつくり続ける。わくわくするからつくり続ける。自分たちの想いにまっすぐに挑戦を続けていきたいです。世界を、驚かせに行きましょう。
ーー最後に、プライベートの過ごし方について教えてください。
前田:一番時間を使っているのは子育てですね。今子どもは10ヵ月ですごく手がかかるので、以前より自分の時間が1/8くらいになりました。ゲームも本もジムも、今はかなり制限されています(涙)。
ーーお子さんが生まれてご自身の心境に変化はありましたか?
前田:会社づくりと子育ては似てますね。すべて映し鏡という感じ。あと、改めて会社が社員のご家族を大事にする価値観はすごく大切だなと感じています。ポケラボのメンバーのお子さんにはゲーム好きも多いので、いつかお子さんがお父さんやお母さんと席を並べてインターンやアルバイトができるようになったら面白いなと。親はちょっと背筋が伸びて新鮮さがあるだろうし、子どもは親の真剣な姿を見て新たな目標を見つけることができるかもしれない。子どもが親の仕事を見られる機会を柔軟につくっていくことも、「世界を変える」の一つなんじゃないかなと思います。まずは自分たちの身近なところから「世界と人を変える」を実現できる会社にしていきたいですね。
ーー前田さん、本日はありがとうございました!
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