グリー開発本部のデータテクノロジー部には、「アナリシスチーム」があります。「analysis(分析、分解)」の名の通り、事業を横断して幅広いプロダクトやプロジェクトのデータを分析・調査しています。グリーグループを支える「影の功労者」とも呼ばれる少数精鋭のアナリシスチームについて、マネージャーの小沢さんと、井本さんに聞きました。
小沢:グリー株式会社 開発本部 データテクノロジー部 アナリシス1チーム マネージャー
2012年、グリー入社。前職でSNSサービスの開発・運営を経て、グリー入社後はゲーム事業で複数タイトルのプランナーを経験。2017年よりアナリシスチームに異動し、現在はマネージャーとして、グリーグループのゲーム事業横断での分析支援を統括。
井本:グリー株式会社 開発本部 データテクノロジー部 アナリシス2チーム アソシエイトマネージャー
2016年、グリー新卒入社。入社当初よりアナリシスチームに配属され、グリーグループのメディア事業立ち上げの際に横断の分析基盤構築や『REALITY』の分析基盤構築に携わる。現在はマネージャーとして、広告、メディア、 メタバースと3事業の分析支援を統括。
各事業が収集した膨大なデータを分析し、精密な判断材料へと加工する
ーーまずはアナリシスチームの業務内容や役割について教えてください。
小沢:アナリシスチームの主な目的・役割は、各事業部の意思決定プロセスにおいて、根拠となる情報を補完し、全事業に対して支援を行うことです。
例えばゲーム事業なら、数十万人のユーザーさまがいつログインして、どのくらい遊んでからログアウトしたかを示すアクセスログが、毎日膨大に蓄積されます。そのデータをどのように分析すればプロダクト運営に必要な情報を導き出せるのか、その分析基盤を設計したり、実際に深い分析作業を行ったり、あるいは分析の方法を事業側へアドバイスすることもあります。
ーーデータ分析を行うだけでなく、その先の提案・支援も担っているんですね。
小沢:分析結果をただ提供しても、それが何を判断するのに役立つのか、その結果がどんなアクションに繋がるのかを知らなければ、その価値がなくなってしまいます。その情報を何の意思決定のために使うのかを踏まえて分析するので、必然的に分析よりも先の部分の支援まで行うことも多くなっています。
井本:この動きは、現在の「アナリシスチーム」の前身となる組織が発足した10年以上前から変わらないと聞いています。当時はグリープラットフォーム上でさまざまなブラウザゲームが登場し、社内統一での分析基盤の整備をはじめ、データ分析に基づく施策提案を行っていました。それがネイティブゲームや新規事業のプロダクトになっても同様で、分析結果から得られたアクションの支援まで行う組織としてサポート範囲を広げ、現在に至っています。
キャリア入社と新卒入社、それぞれ専門外からアナリシスの道へ
ーー小沢さんはどういった経緯でアナリシスチームへ入って、データ分析を専門とされるようになったのでしょうか。
小沢:私は前職で、SNSサービスの開発と運営に携わっていました。ベンチャー企業だったので役割の固定がなく、どんなことでもやる環境だったのですが、何かしら特化した専門性を身に付けたいと考えてグリーへ転職しました。
グリー入社後の6年間ほどは、プロダクトプランナーとして複数のゲームタイトルに携わり、その後アナリシスチームへ転属して3年半経ちました。
ーープランナーとして特化するのではなく、アナリシスの道へ進まれたんですね。
小沢:プロダクトのプランナーは常に新しい施策を打ち出す必要があります。うまくいかなかった原因を論理的に考えて、ユーザーさまの動向やデータを根拠に分析し、「次はこういうことをやろう」と提案したい……と思っても、その当時なかなか満足にできなかったんです。いざ自己流で取り掛かってもデータの海に溺れて、ちゃんとした分析ができませんでした。どうすれば正しいデータ分析ができるのか、メソッドを知りたい、身に付けたいと思っていたタイミングで異動のチャンスがありました。
また、ある日米共同プロジェクトに携わったとき、アメリカのチーム相手に提案をする機会があったんです。そのときに、"言語が伝わらないからこそ"、説得力を持たせて表現するには、数値を示すのが一番だと思いました。そのことがアナリシスへの興味をさらに後押ししましたね。
ーー井本さんは入社当初からアナリシスチームに配属されたとのことですが、どんな経緯があったのですか?
井本:私は学生時代からITに興味を持っており、大学で情報系の学問を学んだ後、「ガンガン働けるIT系の企業で働きたい」という希望で就活をした結果、グリーとご縁がありました。最初からアナリシスチームの存在を知っていたわけではなく、人事部との面談で「数字が大好きで、数字に対して絶大な信頼感を持っている」とか、「0から1を生み出すよりも、あるものをさらに育てるモノづくりがしたい」と話していたところ、アナリシスチームを紹介していただきました。
ーー学生時代から統計学などを専攻していたわけではないんですね。
井本:数学は専攻していましたが、統計には触れていませんでした。私がアナリシスチームに適正があるかどうかは、入社後の研修を見て人事部が判断してくださったのかなと思います。定性より定量を重視して、筋が通っていないと「なんで? どうして?」と同期に詰め寄る姿も見られていたのかな、と(笑)。
小沢:アナリシスチームにはデータ分析のプロフェッショナルが必要ですが、最終的に目指すのは意思決定の支援なので、井本さんのように論理の整合性をしっかり見極めて、プロダクト側に精度の高い提案ができることも求められます。
一方、私のようにプランナーからアナリストへの転向は一見全く異なるキャリアパスのように見えると思いますが、開発現場を理解しているからこそ実現性のある提案ができることもあり、アナリストとしての強みになると思っています。
アナリシス、その面白さは「天気予報」と近い?
ーー日々データ分析に向き合うなかで、達成感や面白さを感じるのはどういう時ですか?
小沢:やはり、データで正しい意思決定をサポートできたかどうかです。ゲーム分析での例としては、ユーザー数が減少しているという課題に対し、そのメカニズムを明らかにするだけではなく、それを事業部の方が理解しやすいように伝えることで適切なアクションに繋げ、実際の改善まで繋がった時に、やりがいや面白みを感じます。同じゲーム事業でも、過去には外部のパートナーさまに向けてデータを活用して提案する際に、より良い条件を見出し、交渉成立に繋げることができたこともあり、そういった時も嬉しいですね。
井本:メディアやメタバースなどの新規事業では、まず何のKPIを上げることを目標にするか、それをどのような定義で集計すべきかを考え、ダッシュボードに可視化することから始めます。
ダッシュボードで現状の解像度がクリアになり、それが起点となって先の改善アクションに繋げられたときも、やりがいを感じます。
ーーそうした専門的なデータの分析結果を、さまざまな事業部の方と共有するときに「(相手が)アクションに繋げやすい提案力」が求められますよね。
小沢:データを分析して見えた事実や仮説をそのまま伝えるのがアナリストの仕事と思われがちだと思うのですが、それだけだと不十分だと思うんです。例えば天気予報で「明日の気圧配置はこうなので、何ヘクトパスカルになるでしょう」と言われるのと、「明日の午後は傘を持って出かけましょう」と言われるのでは、次の行動に差が出ますよね。仮説を踏まえた上で、どうするべきなのかの提案までができてこそ、アナリシスチームの価値が発揮できると思っています。
井本:私は新卒でアナリシスチームに配属された当時、その「伝えることの意識や能力」が足りずに多くの失敗も経験しました。
あくまでクライアントは事業部で、そのサポートを行うのがアナリシスチームなので、どれだけ正しい分析結果や視座を持っていても、相手に伝わらないと意味がないんです。経験を重ねながら学び、「伝える技術」や分かりやすい提案を大事にしたいと思っています。
社員全員が「アナリスト」になり、データの分析を積み重ねる未来を目指す
ーーアナリシスチームが今後目指していく姿や、最終的にこうなりたいという目標はありますか?
井本:全社員がアナリストになり、アナリシスチームが不要になることです(笑)。こう表現すると極端ですが、簡単なデータ分析が自動でできるようなツールを作成し、グループへ普及させたいと思います。
全体の分析力が高まると、アナリシスチームにはより難しい分析の依頼が来るようになるでしょうから、それをまたツール化し、一層難しい分析に取り組んで、また機械学習させ……と、サイクルを回して「分析力」の質を高めたいです。
小沢:特に最近はデータ基盤チームとの連携を強めているため、そのサポートを生かしつつ、グリーグループ全体として分析ノウハウ・スキルが積み上がっていくような仕組み作りを考えるようになりました。誰でもある程度安定したデータ分析を行える仕組みを作るために、REALITY社とゲーム事業部の協力を得て「分析力向上プロジェクト」も進めています。
ーー自分たちの役割を超えて、ノウハウを伝える取り組みを進めるのはなぜでしょうか。
小沢:そもそもアナリシスチームは人数が多いわけではないので、プロダクト数が増えると全てを満足にカバーできなくなります。短期的に一つのプロダクトに入って成果を出しても、それだけではアナリシスが抜けた後に、データ分析に関するノウハウは残りづらいです。私たちのサポートがなくてもデータ分析が続いて、自走できるのが理想です。
井本:そうですね。まずは、施策企画時の段階で「どのようなユーザー体験によって、何の指標をどれくらい増加させることを狙っているか」という狙いを定め、施策振り返り時には当初の狙い通りだったかどうか確認する、というPDCAサイクルを習慣化することが第一歩だと思っているので、これからも積極的に啓発していきます。