構想5年、Keyのシナリオライター麻枝 准さん15年ぶりの新作。誰もが注目する、新作スマートフォン向けRPG『ヘブンバーンズレッド』は、リリース3日で100万ダウンロード、App Storeセールスランキング1位を獲得など、大きな話題を呼びました。その舞台裏にはどんな人々の思いがあるのかインタビューをしました。
リリースは予想以上の反応。だけどここが始まり
ーー「構想5年」と満を持してのリリースでしたが、本作品におけるそれぞれの役割を教えてください。
柿沼:私は総合プロデューサーです。プロジェクトの中ではビジネス寄りの部分を担当しています。このプロジェクトはKeyさんと協業という形でやっていますので、両社の調整や契約などもやっていました。
下田:開発統括としてゲームづくりを担当しています。このプロジェクトは2019年11月に一度リリース延期を告知しておりまして、そのタイミングでプロジェクトに加わって、ゲームシステム全体の設計や進行管理、予算管理、ブランドイメージの再構築を担当しました。
小泉:マーケティングプロデューサーとして、マーケティング全般を統括しています。ゲームづくり以外の部分を主に担当しています。立ち上げからしばらくして合流し、2020年の年末くらいから本格的に動きはじめました。
ーー2022年2月にリリースしましたが、今のお気持ちを教えてください。
柿沼:立ち上げ当時からやっていますので、このメンバーの中では一番長くやっています。元々とてもいい原石があり、これをリリースできれば世の中を変えられると思っていました。とはいえ、どんなにいい企画があっても、私一人では何もできません。開発チームも含め、何十人、何百人という力があって一つの作品になります。ですので無事にリリースされ、世の中に受け入れられてよかったです。
小泉:素直にうれしいですし、無事にリリースされてよかったと思っています。目標にしていた値の何倍もの数値を達成しており、長い間準備してきたマーケティングが間違っていなかったんだという安心が今は大きいです。
下田:シンプルにうれしいですね。とはいえ、スマホゲームはリリースされてからが本当の始まりなので、気が引き締まる思いです。
麻枝さん×スマホゲーム×RPG。最高のものができるという確信があった
ーーWright Flyer Studios × Keyというプロジェクトがスタートした経緯を教えてください。
柿沼:世の中を変えるような面白いゲームを作りたいと思ったのがはじまりです。最初はPCの小規模なブラウザゲームを作るという企画でKeyさんに声をかけました。しかし、ちょうどそのタイミングでシナリオライターの麻枝 准さんが休業から復帰され、それならばぜひ一緒にやろうということになりました。
転機となったのは、話が進んでいく中で、麻枝さんがスマホゲームをやりたいとおっしゃったときです。PCゲームだとユーザーは数万人程度ですが、スマホゲームなら数百万人に届けることができる、と。それならばRPGにしようということになり、麻枝さん×スマホゲームで、これまでにない最高のゲームを作ることを心に決めたんです。
Wright Flyer Studiosにはオリジナル原作ゲームや、RPGを作るノウハウがあります。このコラボレーションならばきっと最高のゲームが作れると確信しました。
ーーKeyのファンの方々からの期待も高い中で、それぞれにプレッシャーもあったかと思いますが、このプロジェクトはどのようなチャレンジでしたか?
小泉:スマホゲームでファン層を広げていく場合、麻枝さんやKeyのファンだけではなく、より多くの人に目を向けてもらわなければなりません。Key作品のファン層を大切にしつつ、いかに客層を広げていくかが難しいところでした。生放送を何回もやりながらコアファンに内容を丁寧に説明しつつ、同時にマスマーケティングも恐れずにやっていく。そのバランス感を常に考え続けていました。
柿沼:キャラクターデザインに、これまでKey作品を手掛けていないゆーげんさんを起用したのも一つのチャレンジでした。これまでの延長線上ではなく、新しいタイトルとして広い層に訴えかけていくための起用でした。ゆーげんさんも既存のKeyファンから受け入れてもらえるか心配していたようですが、リリース後の反応を見ると「かわいい」「きれい」という声が多く、うれしかったようです。
ゆーげんさんが手がけるキャラクターデザイン
下田:麻枝さんの作品というと今まではアドベンチャーが多かったのですが、RPGとしてまとめあげるのも大きなチャレンジでした。プロジェクトに参画することを決めたときは、どのような作品としてまとめていくべきか非常に悩んでいたのですが、初めてシナリオを読んだとき、あるシーンにとても心が震えたんです。そのシーンを読んだ瞬間、そのときストーリーに触れたときにお客さまがどういう感情になっていて、このシーンに至るまでにどういうバトルや日常があって、それらをどういう風に表現するかといったことが、一気に浮かんできました。この初めてシナリオを読んだときの感情を、最大限引き上げるために常に考えつづける毎日でした。RPGのよさは、自分の親指でキャラクターを操作し、主人公が自分であると自然に思えるところにあります。この操作感と麻枝さんのシナリオが融合すれば、必ず良いものになると確信していました。
他人頼りの甘いことは考えない。外部と連携していく中でもWright Flyer Studiosの強みを最大限に発揮する
ーー今回の作品作りにおいて、Wright Flyer Studiosだからできたこと、活かせた技術はどのようなものでしょうか。
下田:Wright Flyer Studiosのメンバーは、目標を示せば、みんなが一丸となってそこに向かって頑張ってくれます。今回は「最上の、切なさを。」というブランドアイデンティティを打ち立てましたが、ゴールをきちんと決めさえすればみんなが自発的に考え動いてくれます。そういうメンバーに恵まれたからこそ、この『ヘブンバーンズレッド』は作れたのだと思います。
柿沼:Wright Flyer StudiosのメンバーもKeyのメンバーも、ストレートに意見を言えるのがいいところですね。本音で協力しあえるために必要な力が双方にあります。相性のいいコラボレーションなのでしょう。いい関係になれたと思います。
柿沼:スマホゲーム立ち上げの苦労を知っていないと、有名なクリエイターの力だけに頼り切りになってしまうかもしれません。一方で自分たちの強さを知っていても、相手へのリスペクトが失われると、お金だけの関係になってしまったりもします。でもこのプロジェクトでは、とてもいいバランスで仕事ができていたと思います。Wright Flyer Studiosのバリューのひとつに「挑戦する、何度でも。」という言葉がありますが、まさにそれをこのプロジェクトの中で何回も実感しました。
お客さまに愛された分を、お客さまに返していく。そんな理想的なサイクルをつくりたい
ーーリリースまで長い道のりだったと思いますが、それぞれ制作の過程で一番思い出深い出来事はどのようなものでしょうか?
小泉:2021年の9月にプロモーションを本格始動する生放送をしたのですが、視聴者数はそれなりにあったものの爆発的な変化があったわけではなく、事前登録期間はヒットするという確信がなくずっと不安でした。でも実際にリリースしてみたら、ものすごく多くのお客さまにご利用いただいて、今は期待に応えていかないといけないというプレッシャーの中にいます。
柿沼:私が印象的だったことは、この作品を表わす言葉として「最上の、切なさを。」を掲げたときです。旗をかかげるのはとても勇気がいります。でもそうすることで、チームの指標ができるのでなくてはならないかなと思いますね。
最後の生放送でファイナルトレーラーというプロモーションビデオを流したのですが、一緒に見ていた声優さんたちがみんな泣き出してしまったんです。それを見て「コンセプトに恥じないゲームになったな」と実感しました。
ーー今回はプロモーションもWright Flyer Studiosが担当だったと聞いております。プロモーションで注力されたことはどんなことでしょうか。
小泉:気を使ったのは、麻枝さんの名前の出し方ですね。とても人気のあるシナリオライターさんですから、ファンは歓迎してくれる一方で、麻枝さんを知らない人は「ああ、自分はターゲットじゃないんだ」って思ってしまうかもしれません。なので、ターゲットを絞りすぎないように出すポイントはかなり考えました。
下田:我々は作家性に魅せられて一緒にものづくりをしているわけですが、伝え方によってはネームバリューだけを利用した製品にも捉えられかねません。この伝え方に対する小泉の肌感覚は抜群でしたね。
小泉:結果として多くのお客さまが楽しんでくれているようなので、うまくいったのかなと思います。
ーー最後にゲームを楽しんでいただいているお客さまへメッセージをお願いします。
小泉:今までKeyさんの作品というと男性ファンが多いというイメージがあるかもしれませんが、女性も楽しめる作品になっているので、いろんな人にこの作品に触れてほしいです。
柿沼:老若男女に愛される国民的作品になってほしいですね。これまではPCゲームを主に楽しんできた人にもぜひやってみてほしいです。
下田:これからも満足していただけるように、ただただ精一杯がんばっていきたいです。みなさんに受け入れてもらい、売上が出たら、それをまた開発人員に再投資してお客さまに返していけるようなサイクルを回していきたいと思っています。そのためにもこの船に一緒に乗ってくれる仲間が増えてくれるとうれしいですね。
柿沼:そうですね、今後はゲームを超えて色んな展開も用意しています。国民的コンテンツになっていく過程はめったに体験できません。共に歩んでいただける仲間が増えてくれればと思っています。
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