世界中のファンの期待を超え続ける創作に集中する

新しい組織でスタートした事業のリーダーに、事業の強みや今後の展望を聞く本企画。今回は「ゲーム・アニメ事業」の本部長に就任した前田にゲーム・アニメ事業をどのように舵取りしていくのか、メンバーへの熱き想いなどを語ってもらいました。

前田前田悠太:グリー株式会社 取締役 上級執行役員 ゲーム・アニメ事業本部長
株式会社ポケラボ 代表取締役社長、株式会社WFS 代表取締役副社長、グリーエンターテインメント株式会社 代表取締役社長

ベンチャーキャピタルを経て、2009年7月より株式会社ポケラボ取締役CFO、2011年12月より株式会社ポケラボ代表取締役社長に就任。2013年9月よりグリー株式会社取締役を兼務。

2022年、リリースラッシュの手応え

ーーゲーム事業では、2021年度はリリースラッシュの年でした。


前田

前田:そうですね。我々のゲーム事業のスタートは2007年にさかのぼります。世界で初めてのモバイルソーシャルゲーム『釣り★スタ』を公開し、2012年頃にはスマートフォン向けゲームの分野へ本格的に参入しました。失敗も成功も経験する中で着実にノウハウを積み上げてきた結果、『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚』や『ヘブンバーンズレッド(以下:ヘブバン)』というスマッシュヒットに恵まれたのだと思います。

ーーこの一年、スマートフォンにおけるゲーム市場に変化はありましたか?


前田

前田:開発・運用面では「大規模化」「長期化」「複雑化」が不可逆に進行しています。数年前は一本の作品を5億円程度で制作できたものが、今や20〜30億円の水準です。また、1年程度で開発・制作できたものが4年、5年と長期化しています。加えて、お客さまの嗜好が多様化=複雑化していることから、喜んで頂くためのさまざまなアプローチと、継続的なコンテンツの提供も求められています。これらの現状から、スマートフォンにおけるゲーム市場は、挑戦し真に喜んで頂けるためには、相応な覚悟が必要な市場へと変化しています。

3社が培ってきた知見を束ね、「ゲーム・アニメ事業」に踏み出す

ーー「ゲーム・アニメ事業」へと体制変更された理由を教えてください。


前田

前田:より総合力を活かしやすい体制を目指した、というのが当本部に集約した一番の理由です。1,100人以上いる3社の総合力を活かすことで、さらに大きな挑戦に、最適に挑むことができると考えています。また、ゲームとアニメの相性の良さは以前から知られていましたが、実際にゲームとアニメをどう連携させるかを長く試行錯誤してきました。ゲームとアニメの両面からお客さまに喜んでもらえる作品作りを考えてきた結果、これから進むべき道に確信を持つことができたこのタイミングで、「ゲーム・アニメ事業本部」という名称に変更したということです。

ーーアニメに関する知見はどのように積み上げてきたのでしょうか?


前田

前田:グリーは2013年頃から他社さまとジョイントベンチャーを設立してアニメコンテンツファンドの組成・運営や、『探検ドリランド』や『消滅都市』など自社作品のアニメ化、『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』や『アサルトリリィ BOUQUET』ほか、他社さまとの協業によるアニメ化など、アニメ事業に挑戦してきました。また、直近5年ほどはグリーエンターテインメントでアニメの製作委員会に積極的に参加させて頂き、ゲーム化やその他展開も推進してきました。現在はアニメ23作品に携わっており(うち9作品がアニメ公開済)、そしてその約8割はゲーム化の進行に至っています。アニメ制作費用の高騰など、日本のアニメ産業を取り巻く構造的な課題に対し、スマートフォンゲームを手掛けてきた我々から提供できる価値が、アニメのお客さまにもアニメ産業に対しても明確化してきたとも言えると思っています。

3社の個性の「協調」でさらなるシナジーを生む

ーー前田さんが思うWFS、グリーエンターテインメント、ポケラボの個性や強みを教えてください。


前田

前田:WFSは、「感動」にまでUXを昇華させることに拘ったゲームをつくるプロ集団です。今年リリースされた『ヘブバン』もそうですが、細部にまで拘った作品を生み出せる発想とそのための技術があります。グリーエンターテインメントは前述したようにアニメ事業に先駆的に取り組んできており、アニメにゲームを連携した、新しい事業モデルを確立している組織です。また前身となるファンプレックスから、ゲーム運用にも自信があります。ポケラボは『シノアリス』『アサルトリリィ Last Bullet』を始めとして、10年来マルチプレイ型RPGゲームを中心に手掛けてきました。特に多人数対多人数の同期型のRPG(GvG)や、ゲームとアニメほかの展開を連動させてファンの期待を超えることに拘ったゲーム開発をしてきています。

ーー3社の協調でどのようなシナジーが生まれると考えますか?


前田

前田:総合力をより活かすべく、まずは「協調」を強化するフェーズと考えています。3社の素晴らしいところや良い取り組みなどを横連携し、総合力の引き上げにつなげます。それぞれの立場から隣の会社を見たときの解像度を高める仕組みをつくり、「気づき」の最大値を引き上げられるよう進めていきます。また、協力して開発する機会も増やします。今回のように、3社の中でどこか1社で大きなヒットが出ると、3社それぞれにさまざまなお声がけが増えました。そういった機会の芽を3社で最大化させていくことも視野に、体制を構築していきます。

ーーシナジーを生むための難しさや、解決したい課題はありますか?


前田

前田:ものづくりをするのは人ですから、「仕組みでは解決できないことがある」という点は難しいところです。どんな組織でも、働く環境や仕組みを構築すれば一定の水準までは機能すると思います。しかし、それが真にシナジーの結晶と言えるアウトプットになるかの肝は、クリエーターたちのセンス、想いのある発想と技術です。そのため、クリエーター同士が感性を刺激し合える、作品で語り合える組織にしていきたい。そういうことを感じられる機会を増やしていきたいと思っています。

100年愛される作品創りの中心に

ーー前田さんが考える10年後になっていたい姿とは、どのようなものでしょうか?


前田

前田:100年愛される作品を生み出し育てることができる、そういう事業本部になっていたいですね。私が子供の頃に初めて触れた作品の中で、今も名作として存在している作品はたくさんあります。そんな風にこの10年かけて手掛けた作品が、世界中の熱狂を生み、さらには次の世代のクリエーターの手によって、その後100年に渡って愛され続けるという未来をつくりたいです。その時代の最前線のクリエーターが、自分たちが作品に込めた気持ちに思いを巡らせながら、20年後、50年後、100年後と、常に新しい喜びや楽しみを提供できる——。そんな価値ある仕事ができているチームであることが、私の思い描く理想像ですね。

ーーそのために3社において特に重要なことは何でしょうか?


前田

前田:想いやプライドがあることがまず大事だと思います。「胸の張れないものは出さない」「ファンの期待を超え続ける」という信念があること。その上で、実現できるに足る技術や制作能力を積み上げ続けて、自分たちらしさが際立ち、それが求められるほどの価値になっていることが重要だと思っています。だからこそ、3社のクリエーターが互いに刺激し、モチベーションを高め合うことが大切。技術や制作能力をより効率的に積み上げられるようにすることが、今回の体制変更の趣旨でもありますが、大切なことだと考えています。

「積み上げる」戦略が実る環境で、長期の成長拡大を目指す

ーーこれまでの積み上げによる成果について、どのように感じていますか?


前田

前田:エンジン戦略として掲げ、RPGジャンルのゲームシステムに拘って積み上げてきた成果が、前期のヒットでもあります。RPGの主要なゲームシステムで、ポケラボやWFSは長年作り続け、そのノウハウもソースコードも資産として積み上げてきました。また、ゲームシステムのみならず3D技術や、グローバルパブリッシング機能、品質管理機能も長年積み上げてきた組織とノウハウの集合体です。さらには自分たちがつくったゲームシステムを自分たちらしく世界に配信するための術として、知的財産グループを通じた特許の出願もこの10年で意識的に積み上げてきました。この積み上げは今後、グリーグループ全体の成長に大きく役立つと確信しています。というように、我々は、2年や3年という短期的な成長ではなく、10年20年といった長期的な視点での拡大を見据えて動いています。

ーー3社のトップという立場である前田さんの「覚悟」についてお聞かせください。


前田

前田:1本の作品に対して、数十億という投資規模、3年や5年といった長期間やり切れるかという判断、その長期間のプロジェクトに例えば100人といった多くの人員を配置する決断をすること、どれを取っても吐きそうなくらい結構な覚悟が必要ですよね。しかも、協業企業の方々や連携先の皆さまを巻き込みながら進めていくことも常です。ということを、一緒に実現しに走ってくれている仲間がいるからなんとかやれています。関わってくださる全ての方々へ感謝とリスペクトを忘れずにいたいですね。

ーーゲーム・アニメ事業はもちろん、グリーで働く全ての人にメッセージをお願いします!


前田

前田:グリーグループのどの事業も、信念を持って積み上げ続けて勝つことを、重要な戦略的コンセプトの一つとして運営されています。我々のゲーム・アニメ事業のような、ボラティリティが一般的に高い事業でさえ「積み上げて勝つ」を体現できているのなら、それは説得力あるように思います。それは、この強固な財務基盤と資本的安定性の両方がある稀有な環境を活かした戦い方とも言えます。2022年7月1日で、他本部も体制変更が多かったですが、変化や進化をし続けながらも、腰を据えて戦えるこの環境を自覚的に活かして挑戦し切ってほしいなと思いますね。