エンジン×IP戦略の最前線。メディアミックスの先に見るグループシナジーとは

グリー株式会社と株式会社ポケラボは、スマホゲーム『無職転生 ~ゲームになっても本気だす~』(以下、『無職転生』)において、それぞれ企画協力とゲームシステム提供及び技術協力を担当することを発表しました。アニメ化と同時にゲーム化が決まった、メディアミックスによるタイトルの配信に向けて、複数の外部企業やグループ企業と協業して開発を行うことになった背景や、グリーグループ内での組織横断の連携などをグリーのライセンス事業部(以下、LB部)とポケラボ社の皆さんに語ってもらいました。

大辻大辻:グリー株式会社 Japan Game事業本部 ライセンス事業部 シニアマネージャー
グリーに入社後、プラットフォーム部門で外部企業との共同開発を担当。現在はアニメ作品への出資やゲーム展開のパブリッシング・プロデュースを担当。

大須賀大須賀:グリー株式会社 Japan Game事業本部 ライセンス事業部
アニメーションの企画・プロデュース、版元とのライセンス交渉を担当。今回のTVアニメ『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』のプロデューサー。

川島川島:株式会社ポケラボ アライアンス事業部 部長
ポケラボのゲーム内製案件獲得やアニメ製作委員会への出資、自社ゲームエンジンライセンスアウトなどを担当。

土屋土屋:株式会社ポケラボ アライアンス事業部
アニメ業界からポケラボ社に転職。業界の人脈とアライアンス、パートナーシップを作って新たなコンテンツを開発している。

アニメ化と同時にゲーム化へ。グリーグループ内でも連携

ーーIPビジネスを行うグリー社のライセンス事業部とスマホゲーム開発のポケラボ社がどのような経緯で『無職転生』のゲーム化にて協力することになったのでしょうか?


大須賀

大須賀:グリーのLB部は、アニメ作品への製作出資と、それらのライセンスを活用したゲーム化を推進している事業部です。
今回も『無職転生』のアニメ化についてプロデュース会社さまからお声がけいただき、アニメ出資やゲーム化を検討しました。ゲーム化にあたり、LB部でさまざまなゲーム開発会社にお声がけしていたところ、グループ子会社であるポケラボがこのタイトルに非常に興味を持ってくれたのですが、制作ラインのスケジュールが合わず内製が難しい事が分かりまして。それでもこのタイトルは絶対にヒットすると思っていたので、何か解決策がないかと川島さんと相談し、ポケラボのゲームエンジンを活用してゲーム開発できる外部のパートナーさまも探しながら、現在の体制に着地しました。


川島

川島:自分のチームにも『無職転生』のファンがいまして、彼と大須賀さんの「この作品は絶対当たる!だから、アニメ出資したいしゲーム化もしたい」という熱量で実現しました。

ーーポケラボでのエンジンライセンス事業は、どのように発案されたのでしょうか。


川島

川島:きっかけはグリーのJapan Game事業本部やLB部からの相談だったのですが、土屋がアニメ業界にヒアリングを重ねたところ、ニーズがありそうだと判断して事業に力を入れる体制になりました。


土屋

土屋:そうですね、アニメとゲームの業界では、文脈も空気感も違います。アニメ業界は海外展開が安定性の面で重視されているものの、爆発的に伸びるものではないので、アプリゲーム化のライセンス事業に興味があるという状況です。特に近年、複数の媒体でIPコンテンツを成長させるメディアミックス戦略においてゲーム化は不可欠になってきています。そのため、アニメのプロデューサーなどがどんなゲームにしたいかを考える時、すでに実績のあるゲームエンジンを提案できると手元の現物から具体的な完成形をイメージしやすいそうです。



他社と情報を共有し、LB部とポケラボそれぞれの強みが進化する

ーーゲーム開発を進めていく上で、大変なことや注力しているポイントはありますか?


大辻

大辻:グループ内外に関わらず会社が違えば文化も違うので、それらを考慮しながら制作を進める必要があります。まずはお互いをよく知るためにも会話を増やして、地道に相手の考えを知る活動を行いました。あとはメンバーそれぞれが自分たちの役割をしっかり果たすことで、周囲から信頼を得られ、課題を乗り越えていけるのだと思います。


川島

川島:確かにそうですね。開発会社さまが力のある会社なので、クリエイティブもどんどん良いものが出てきて信頼していますし、それを見たポケラボの役割は、エンジンがしっかり動くように開発会社さまの課題解決にあたること。また、事前登録だったり、リリース後にバグが出ないようにQA期間やブラッシュアップ期間がしっかり取れるかどうかなど、ポケラボ側のノウハウを共有し、コツコツ陰から支えつつ信頼を得ているんです(笑)。


大辻

大辻:ポケラボは、現場の負担が増えてしまう要件でも柔軟かつ誠実に対応してくれています。メンバーそれぞれが、協力的な体制があるからこそ、開発会社さまもエンジンを活用しやすいのではないでしょうか。今回は特に開発現場のレベルが高い上に、サポートが手厚いのでスムーズに制作できていると思います。


土屋

土屋:グリーは、アプリゲーム業界内での信頼度が非常に高いと感じます。LB部に版元との交渉へ参加してもらうと、ソリューションの知見もあるので話が早く前に進むんです。エンタメ業界はコネクションと信頼関係を大切にするので、営業力やコミュニケーション力が高いLB部と一緒に動けるのは非常にありがたいです。

ーーグリーグループ内だけではなく他社と組むメリットはどういったところに感じますか?


大辻

大辻:他社さまのIPをお預かりするゲーム開発においては、グリーが製作出資する作品であっても、絵を描くにもシナリオを書くにもその都度関係者への確認を取りながら進めます。そうしたゲーム監修のコツやポイントが、これまでグリーが関わったさまざまなIPゲーム開発を通して蓄積されてきているんです。他社と協力してこうしたノウハウを共有できること自体がメリットですし、アニメ・ゲーム業界全体の底上げになると考えています。


川島

川島:ゲームは開発力や運用力、プロモーション、コンテンツ制作などそれぞれの総合力で成り立っています。複数社の体制で一緒に仕事をすると、お互いに新しく学ぶ事があり非常に刺激を受けますね。



「強み×強み」で最強のメディアミックスとゲーム制作を可能にする

ーーその一方で他社にはない、グリーやポケラボ独自の強みはどんなところでしょうか。


大辻

大辻:冒頭にもお話ししましたが、アニメ製作に出資して、ゲーム化の権利を活用し、展開する。この一連の動きがまさにLB部独自の部分です。他にもゲーム化の権利を保有する企業はありますが、グリーがこれまで積み重ねてきたゲーム開発経験は持っていないと思います。グリーはどちらのノウハウも活かして展開できるのが強みです。


川島

川島:ポケラボの強みは、ゲーム開発会社としてたくさんの成功や失敗を積み重ねてきた部分ですね。その中で、自分達の得意なことに集中しようという考え方が社内に浸透しています。「GVG」と「シナリオRPG」の2つのゲームエンジンにフォーカスしているのはその結果で、作品やファンの方々を深く理解し、リッチなコンテンツで、得意なエンジンに落とし込み、ファンの方々の期待以上の体験を届けたいという想いでゲームづくりをしています。


大須賀

大須賀:ゲーム市場の競争が厳しくなる中で、ここ1〜2年のグリーグループは各社で戦うのではなく、グループとしてシナジーを生み出そうという戦略を強めてきました。実はLB部とポケラボが共同でゲーム開発に当たるのは今回が初めてなのですが、これもその戦略の一環といえます。「強み×強み」の開発がグループ内で実現できるなんて、これ以上のことはないと思います。

ーーリリースに向けて開発を進めている最中かと思いますが、新たにチャレンジしていきたいことはありますか?


大辻

大辻:『無職転生』の日本国内でのリリースは決まっていますが、グローバルでのチャレンジもしたいと考えています。日本のアニメ作品はアジア圏や北米を始め海外のファンの数も増えていて、特に最近では多くのアニメ作品が世界で同時に配信されるので、海外のファンの方々も日本と変わりないスピードや温度感で作品を楽しみ、ゲーム化などの展開に期待してくれています。


大須賀

大須賀:LB部では「日本のコンテンツで世界に感動を届ける」というミッションを掲げています。それを実現するためにも、さまざまな方法で良い作品を生み出し、ゲーム化を促し続けたいです。ゲームはもちろん、アニメに関わる周辺ビジネスを幅広くLB部が担っていければいいですね。
個人的には、グループ内のWFSやポケラボと協力し、IP作品から本気のゲームを生みたい、という野望があります。


土屋

土屋:ライセンスを取得してゲーム開発をする際、リスクヘッジのためにIP作品を無難に扱いがちですが、版元さまと強い協力関係を結ぶことでIP作品に積極的に踏み込み、版元さまと一緒に新たな要素を考案したり、オリジナルストーリーを展開するなど、ゲームでしか味わえない体験を生み出したいです。そのためにグループ規模でコネクションを作り、信頼を得ていきたいなと。『無職転生』はその一歩目なので、必ず成功させたいですね。


川島

川島:ポケラボでは、つい先日『アサルトリリィ Last Bullet』が配信開始になりました。ポケラボが初めてアニメ製作委員会に出資し、複数の企業とタッグを組んでメディアミックス展開を行っています。このアサルトリリィプロジェクトを10年続くプロジェクトにすること。また、ポケラボの強みは「積み重ね」ですので、版元各社さまとの関係性の積み重ねを大事にして、事業をより一層拡大していきたいです。