「小説家になろう」で話題となり、書籍やアニメ化など多彩な展開を見せる大人気作品『転生したらスライムだった件(以下、転スラ)』のスマートフォン向けゲームアプリ『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚(以下、まおりゅう)』が2021年10月28日にリリースされました。事前登録者数は100万人を突破し、ユーザーの期待を受けて予定よりも早いサービス開始を行うなど、話題が尽きない『まおりゅう』について、プロデューサーと開発統括担当のお二人に開発秘話やゲームに込めた思いなどを突撃取材。
今回は、バンダイナムコエンターテインメントのWebメディア「アソビモット」とタッグを組み、サイドストーリーでお届けします。それぞれにしかない秘話もありますので、ぜひお楽しみください!
大西 清太郎:株式会社バンダイナムコエンターテインメント 『まおりゅう』プロデューサー
株式会社バンダイで男児向け玩具の開発に携わったのち、株式会社バンダイナムコエンターテインメントにて『まおりゅう』のプロデュースを手がける。
長野 賢司:株式会社WFS 『まおりゅう』開発統括
3Dアーティストとして複数のゲーム開発に携わったのち、WFSにて『ダンメモ』のディレクター、プロデューサーを歴任。『まおりゅう』は開発統括を担当。
縁と信頼、挑戦への決意が重なった企画始動
ーー『まおりゅう』のリリースおめでとうございます!事前登録者数が100万人を超えるなど、『転スラ』ファンからの期待値も高い中で、満を持してのリリースでした。今回の『まおりゅう』は、この2社で協力して開発・運営されているということですが。
大西:はい、この『まおりゅう』はバンダイナムコエンターテインメント(以下、BNE)にて企画・配信していますが、開発・運営の部分ではWFSさんとタッグを組んで行っています。
長野:WFSは主に開発・運営の役割を担っていますが、企画の部分からBNEさんと二人三脚で、お互いに意見交換させてもらいながら今回のリリースまで至りました。
ーーそもそもお二人は『まおりゅう』以前からお付き合いはあったのでしょうか。
大西:長野さんとは今回の『まおりゅう』からですが、WFSさんとは2019年に別の作品のタイトルでご一緒させていただき、それがきっかけで今回の『まおりゅう』もWFSさんに開発をお願いしたいと思っていました。
長野:私はこの『まおりゅう』の開発をWFSにお話をいただいたタイミングからですね。井手というディレクターとともに『まおりゅう』の企画提案チームに入りました。当時、他のタイトルを担当していましたが、自分自身としては次のチャレンジをしたいと考えていたところだったので、非常にありがたいお話でした。
ーー現在の『まおりゅう』のタッグになるきっかけはどこにあったのでしょうか。
大西:『転スラ』はもともと僕がWeb小説版から好きだったというのもあって、実際にアニメを観てこれはゲーム化したいという思いが出てきて、開発会社さんをどこにするかを検討していました。そのときWFSさんとご一緒した別タイトルのお仕事を通じて、開発技術力の高さやIPに対する愛を感じたんです。お願いするならそういった開発会社の方がいいなと思っていたので、ご指名させていただいたという経緯ですね。
『転スラ』への愛をゲームでいかに表現できるか、追求した日々
ーー改めて、『まおりゅう』にはどのような特徴がありますか。
大西:『まおりゅう』は、ユーザーさまが『転スラ』の世界を追体験できるゲームです。クエストでは、ボイス付きのアニメのストーリーや他では見ることの出来ない原作者の伏瀬先生監修のオリジナルストーリーを楽しむことができ、バトルパートでは原作のアニメさながらの演出とともに3Dで迫力満点のアクションが繰り広げられます。
長野:原作で主人公のリムルが築いた「魔国連邦-テンペスト-」の「建国」を追体験できるシステムや、リムルのユニークスキルである「大賢者」が、機能を跨いで通知や質問に答えてくれるサポートシステムも実装されています。
ーーその中でも、最もこだわったポイントはなんでしょう。
長野:「ホームと建国システムの連動」にはこだわりましたね。私は漫画から入りましたが、Web小説版も含み『転スラ』のファンなので、世界観をゲームでどう表現するかが、作品愛が非常に出るところだと思っています。『転スラ』はリムルとリムルの仲間たちが、ひとつの町を作っていくストーリーなので、単純なバトルで強くなるシステムよりも、今ある生活をより豊かなものにしていくような世界観が大事かなと。それがベースにあり、建国システムの制作へとつながっていきました。より没入感を高めるため、ゲームの中で自分が作った建物がホーム画面として実際に歩けるようになっているんです。当初は技術的な課題も多かったのですが、そこは「技術のWFS」というプライドで、メンバーもすごく頑張ってくれて成し遂げられたところですね。
大西:「建国システム」は、原作を読んだときにすでにイメージがありました。『転スラ』の世界は「行きたくなる異世界」。いろんな異世界作品のなかで、群を抜いてそんな気持ちにさせてくれる作品なんですよね。その感覚をゲームに組み込めたらと考えていました。「あたかも異世界に行っている気分になれる」というのを企画書に書いていて、それをWFSの皆さんと話しているうちに「じゃあその世界を歩くのはどうですか」という流れになりました。最初は技術的な問題や、ローディングの負荷などを課題としていましたが、WFSさんはそれを見事に解消してくれて、やりこめばやりこむほどより異世界感を味わえる、当初のコンセプトが表現できていると思います。
長野:大賢者についても、『転スラ』愛を表現するには避けられないポイントでした。私自身が最初に掲げていたコンセプトは「キャラクターとテンペスト(町)を、大賢者とともに育てていく」ということ。バトル画面やストーリー、チュートリアルの随所で大賢者が登場して、あたかも自分がリムルになったような体験ができるようになっています。
大西:大賢者は、作品中で主人公に寄り添ってくれる、ある意味一番主人公に近い立ち位置の存在であり、事前調査でもファンの方々からかなり人気でした。それを見て、大賢者はファンの方々にとって重要なポジションというのを再確認したんです。そこをしっかりと汲み取ってあげたいと思い、ゲーム内でもサポート役として、全体のコンシェルジュの役割を担ってもらうことにしました。長野さんとの企画打ち合わせの際にいつも指標に置いていた「あたかもリムルになったような体験」=「圧倒的リムル体験」はそのあたりでも感じられると思います。
作品のみならず、お互いに対してのリスペクトが止まない
ーー『まおりゅう』の開発を通して、お互いの良さを感じる部分はありましたか。
大西:WFSは開発技術力の高さと持っているマインドがすごいと思いました。企画会議は理想的な着地点を話し合うもので、開発サイドはそれを仕様として形にしていただく、というのが通常なのですが、WFSさんが生み出す「形」は理想的な着地点の少し先へ到達しているなと。もう2年以上ご一緒していますが、それは常に感じていますね。いつも「プラスワンしてみました!」というご提案で全体の完成度を高めてくれますし、その高い技術力に脱帽します。そして開発に関わっているチームのみなさんのマインドが素晴らしく、ゲームに対する思いや作品に対する愛をちゃんと持ってくれているのが伝わってくるんです。『転スラ』の原作やアニメについて話をしていても共感できる部分が多いですし、企画を仕様に落とし込むときにはしっかりユーザー目線でも話してくれる。技術だけじゃないそのマインドが、別格だと感じました。
長野:ありがとうございます。作品愛ではBNEさんや大西さんも目を見張るものがあると常々尊敬していますが、WFSでもチーム全体で作品への愛を意識させるために、朝会ではいつも『転スラ』に関するクイズを出しています。でも、チームのみんなの知識量がすごくて、答えとともにトリビアが返ってくるんです(笑)。それくらいメンバーの『転スラ』への愛が深かったことが、表現のこだわりに繋がっているので、その思いを感じていただけたのはうれしいですね。
「簡単で、奥深い」長く続けられるゲームを目指して
ーー『まおりゅう』リリースまで2年以上の道のりの中で、お二人がここだけは譲れなかった、というこだわりポイントはありますか。
長野:先ほどもお話しした「ホームと建国システムの連動」についてですが、実はもしこれができなかったらリリースする意味がないと考えていました。ゲームは、始めた瞬間の最初のインパクトが大事。そこで新鮮さを感じてもらわなければ、というところはかなりこだわっていました。
また、単純にレベルが上がって体力が回復して…という、ユーザーさまがこれまで多く体験してきた展開からは離れたいという思いがありました。それを踏まえて、テンペストがどれだけ発展したかを示す住民数という指標を設けたんです。『転スラ』のゲームだからできる表現として、ここはこだわりましたね。大賢者の表現も同様です。モーダルの説明ウインドウなど、いたるところに大賢者っぽさを出すことに注力しました。
大西:裏側でずっと意識していたのは、ユーザーさまのストレスを軽減したいというところ。ド派手な技も相まってバトルも楽しいし、町を歩けるおもしろさもあるなかで、プレイ中にストレスを感じてしまうと、それがすべて減点対象になってしまいかねません。昨年実施したユーザーさまのレビュー会の際には手元のカメラで指の動きを追ったり、オンラインのモニター調査では手元のカメラに加えて表情も撮影したりして、操作に迷ったポイントや感情の機微を踏まえて一つひとつ改善ポイントを洗い出しました。長く遊んでもらいたいという想い、それこそ「異世界に行って永住してもらいたい」という裏コンセプトを実現したかったんです。
ーーご苦労された点ということでもありますよね。
長野:あとはローディングの時間の長さの問題もありました。もちろんマイルストーンとして課題に置いていましたが、改めてユーザーさまからのご意見をいただいたことで、重要性を再認識しました。ローディングの時間の長さを縮めるために、一時期は「もうホーム画面の仕様を変えなければ」というところまでいったんですが…そこは諦めたくなくて、エンジニアの総力を結集して対応しました。小さなストレスはゲームへの没入感の阻害になり、楽しんでいたユーザーさまを現実世界に引き戻してしまいますから。ある意味で、まさに技術への挑戦というところではあったので、ここはなかなか大変でしたね。
ファンの期待を超えるため、納得できる”ものづくり”を
ーーBNEとWFSという、この2社だからこそ生まれたシナジーもあるかと思います。
大西:別の作品タイトルから続く関係ですが、そのときからWFSさんの開発技術力の高さやマインドに触れて、相互理解が深まっていると思います。なので、いろいろな話し合いでも、意見が食い違うこともあまりなかったと思います。納得しない部分が積み重なって、プロダクトがいびつな形になってしまうことってあると思うんです。そこがないことによって、2社の間でスムーズな意思疎通ができて、その意思をちゃんとゲームに落とし込めたことが、プロジェクトとしての成功と言ってもいいと思います。
長野:私もまさに同じポイントを思っています。基本的には開発に予算はつきもの。期限があったり、場合によっては予算の関係で実装できなくなる企画もあったりします。ただ、今回は開発の終盤になって実施したCBT(クローズドβテスト)で、ユーザーさまから出てきたご意見や見つかった課題に対して判断が迫られた際にも、両社ともより良い形を目指しているから、できるだけ満足いく方向に行こうとしましたよね。これはBNEさんとWFSだから生まれたシナジーだと思います。
大西:おっしゃる通り、品質へのこだわりについては、高いレベルで同じ目線になっていましたよね。本当は、アニメの放送が始まって、ファンの皆さまの熱が高まっているところでお届けしたいという想いがあったのですが、そこを超えてでも品質を高めて納得できるものをリリースする、というところも合意できた。検討パターンで松竹梅の3つがあった場合に、いつも絶対に松を選んでましたよね。
ーー最後に『まおりゅう』のユーザーの皆さまへのメッセージをお願いします。
大西:主人公のリムルは、異世界に行ってから成長して仲間が増えていきます。そのワクワク感を体験できるのが魅力の一つですが、その魅力をより実感していただけるようなアップデートを増やしていきたいと思っています。パワーアップしていく『まおりゅう』とともに、皆さんも異世界の住人として一緒に成長していくのを肌で感じていただけたらうれしいです。
長野:現在、ありがたいことにたくさんのユーザーさまに遊んでいただいておりますが、不具合などでご不便をおかけしてしまっていることを申し訳なく思っていると共に、まずはその点について全力で改善していくように開発一同進めております。また、継続して楽しんでいただけるように、ストーリー追加やバトルクエストの追加だけではなく、監視塔の上に登って、町を見下ろしたり、会話ができたり……そんな世界の広がりとそれを見つける感動といった、このゲームならではの楽しみ方がある部分のアップデートも計画中です。引き続き、応援よろしくお願いします。
ーー『まおりゅう』の魅力がさらに伝わってきました。お二人とも、ありがとうございました!
バンダイナムコエンターテインメントのWebメディア「アソビモット」でも、お二人のインタビューを掲載しています。
オリジナルストーリー制作までの裏側など、ここだけの話も満載ですので、ぜひご覧ください!
©川上泰樹・伏瀬・講談社/転スラ製作委員会
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