85%が海外ユーザー!ライブ配信アプリ『REALITY』グローバル化対応の舞台裏

日本発のバーチャルライブ配信アプリとして2018年8月にリリースした「REALITY」。2022年2月時点で世界63の国と地域に配信しています。「日本のアニメテイストアバター×ライブ配信×コミュニティ」という独自性は海外でも広く受け入れられ、いまやユーザーの約85%が海外からの利用となりました。世界のユーザーに向けたプロダクト作りへの思いや今後の展望についてREALITY株式会社の担当者に話を聞きました。

清清:REALITY株式会社 プラットフォーム事業部 エンジニアリンググループ ネイティブチーム マネージャー
2018年にグリーに入社。入社後、REALITYのiOSエンジニアとしてiOSアプリの開発を担当。現在は、ネイティブアプリ開発チームのマネジメントと、アプリのローカライゼーションフローの改善を担当。

山本山本:REALITY株式会社 プラットフォーム事業部 プロダクトグループ プロダクトデザインチーム
2019年にREALITYに入社し、以降アプリのUX/UIデザインを担当している。現在はビデオチャットの機能改善、デザインチーム内の業務フロー整備などを行っている。趣味は料理。

工藤工藤:REALITY株式会社 プラットフォーム事業部 プロダクトグループ レベニューグロースチーム マネージャー
2019年にグリーに入社。入社後、REALITYに配属。現在は配信イベント、ガチャ施策策定などを担当

日本のアニメテイストのアバターが海外の若者に人気

ーーまず『REALITY』の海外利用状況について教えてください。


清

清:63の国と地域に配信しています。当初は国内向けのアプリとして2018年にリリースし、2020年にタイ、ブラジル、ベトナム、韓国などへの配信をスタート。2021年にはアメリカ、アジア地域などへ配信を拡大しました。現在では約85%が海外からの利用になっています。年齢層は18~24歳の若いユーザーが約半数です。

ーー約85%が海外ユーザーとは驚きです。海外でこれほど受け入れられると予想していましたか。


工藤

工藤:正直、予想以上です。ただ、数年前からVTuberのゲーム実況などが国内外で人気を集め、アバターを使ったコミュニケーションも広まっていました。『REALITY』が受け入れられる市場の素地は出来つつあったと思います。実は海外配信を始める前から、なぜか一定数の海外ユーザーがいたことも、海外展開を始める後押しになりました。


山本

山本:そうですね、あとはスマートフォン1台でアバターを使ったライブ配信ができるサービスが世界的にも珍しかったのが人気の理由だと思います。あとは日本のアニメテイストの『REALITY』 のアバターが純粋にかわいいことでしょうか(笑)。

『REALITY』流ローカライズや国際化の進め方

ーー海外展開に伴い、『REALITY』はどう進化させてきたのでしょうか。


清

清:もともと国際化を意識した作りにはなっていなかったので、まずは英語対応から始めました。翻訳から実装までのワークフローは、今後ほかの言語に対応するときのベースになると考えたので、かなり丁寧に作り込みました。このときはグリーが行ったプラットフォームやゲーム事業の国際化の知見にも助けられましたね。しばらく英語のみの対応でしたが、2022年1月に10言語を追加し、現在は12言語に対応しています。

ーー12言語! 一気に対応したのですね。


山本

山本:はい。なかにはマレー語やドイツ語のような日本人にはなじみが少ない言語もあります。英語であれば、自分でもある程度は読めますが、ほかの言語は翻訳者に頼るしかありません。同じ意味の言葉でも、言語によってテキストの長さにかなり差があるんですよね。たとえばドイツ語は、英語の2〜3割増しです。一番長いテキスト量が正しく表示されるかデザインの確認も必要でした。




同じ画面での、日本語・英語・ドイツ語の画面。長いテキスト言語を考慮したデザインとなっている。


清

清:英語以外は翻訳者のリソース確保も大変で、翻訳から実装までのワークフローに時間がかかってしまっています。また、上がってきた翻訳やユーザーからの誤訳の指摘が正しいかを我々で判断できないのも悩ましいところ。LQA(Linguistic Quality Assurance/翻訳の品質管理)は今後の課題です。


工藤

工藤:『REALITY』では定期的に開催している配信イベントを、英語へ翻訳して海外へも配信しています。翻訳ツールや社内の翻訳チームを活用することで、効率的に海外へのイベント展開を行えるようにしています。

ーー海外でも配信イベントは人気ですか。


工藤

工藤:はい。ただ、海外での参加率はまだ日本ほど高くありません。イベントの開催時間がJST(日本標準時)を基準にしているので、地域によっては真夜中で参加しにくいこともあるようです。そこで先頃、まずはアメリカで配信しているアプリのタイムゾーンをEST(アメリカ東部標準時)に設定しました。今後はほかの地域へも対応を広げていく予定です。


清

清:技術だけでいえば、すぐに地域ごとのタイムゾーンの設定や、それこそヨーロッパのサマータイムに対応することも可能です。しかし、そこまですると処理が複雑になるし、運用も大変。他社の事例をみても、ローカライズを急ぎすぎると過剰にコストがかかってしまいがち。着実に進めていくことを意識していますね。

ーーユーザーが増えるにつれて、システムに負荷もかかるようになったのではないですか。


清

清:そうですね。以前は新しい機能の開発に注力していましたが、最近はパフォーマンス改善に力を入れています。直近では、2022年1月に配信サーバのマルチリージョン化を行いました。これまで配信用サーバは日本にしかなく、アメリカのユーザー同士で配信・視聴する場合も、日本のサーバを経由していたため、日本のユーザーに比べて数倍程度の遅延がありました。ライブ配信というリアルタイムコミュニケーションのサービスでは、通信の遅延はサービスの品質低下につながります。そこでアメリカにも配信サーバを設置し、アメリカ国内のみの通信で済むようにしました。

さらに多くの海外ユーザーが楽しめるアプリを目指して

ーー現状の課題や今後取り組んでいきたいことを教えてください。


清

清:さきほど英語以外の言語では、翻訳から実装までのワークフローに課題があるとお伝えしました。その改善のために「Lokalise」というLMP(Localizaion management Platform)サービスの導入を検討しているところです。導入のメリットは大きく3つあります。1つめはプラットフォーム上で翻訳を依頼でき、結果が自動的にデザインツールに反映されるので、ワークフローのスピードアップができること。2つめは翻訳を依頼するときに使用予定画面のイメージも送れるので、翻訳の精度が上がること。3つめは翻訳の修正をすぐにアプリへ反映できる仕組みがあること。現在は翻訳修正はアプリのアップデート時しか反映できませんが、フィードバックサイクルを早く回せるようになれば、アプリの品質向上や知見の蓄積に役立つと考えています。


山本

山本:海外ユーザーの声をいかにプロダクトへ取り込んでいくかも課題です。最近は日本のライブ配信サービスだけでなく、海外でよく使われるSNS系の配信サービスの機能も研究しています。それに加えて今後は海外ユーザーへのインタビューやユーザビリティテストの手順、さらにそこからUI/UXを改善していくフローを確立したいと思っています。


清

清:国内外問わず、ユーザーとのつながりは大事にしていきたい部分です。先日ユーザーコミュニティに向き合う責任者として「コミュニティマネージャー」というポジションも新設しました。


工藤

工藤:イベントに関しては、開催時間の見直しや海外ユーザー向けの告知の方法など、まだ改善の余地はあると思っています。アバターの着せ替えができるガチャも、日本と海外では売れるモチーフが違うかもしれませんし、そもそもガチャ形式よりショップ形式のほうがなじむ可能性もあります。新しいやり方を模索しながら、海外ユーザーにもさらに喜んでもらえるものを開発していきたいです。

ーー最後に『REALITY』に関わるおもしろさや醍醐味を教えてください。


山本

山本:最近の『REALITY』ではアバターを使ったライブ配信だけでなく、SNS的な使い方も推進しています。「グローバル×アバターサービス×SNS」というほかにはない価値を提供できるプロダクトであり、その開発にデザイナーとして関われていることにやりがいを覚えますね。


工藤

工藤:日本発のサービスをいかに全世界に展開させていくか、というチャレンジの真っただ中にいられることも醍醐味です。いずれ国際化やローカライズが完了すれば、地域ごとに担当をつけてサービスを深化させていくことになるでしょう。全世界を対象に開発を進める今はカオスのような状況ですが、その分得られるものが多いと感じますね。


清

清:今後、国内の市場規模はどんどん小さくなることを考えると、プロダクトの国際化は必然ともいえます。困難も多いですが、非常におもしろいですね。『REALITY』の開発で溜めた国際化やローカライズの知見は、今後グリーグループ全体にも還元していきたいと思います。