株式会社スクウェア・エニックスと株式会社ポケラボの共同開発による、ダークファンタジーRPG『SINoALICE ーシノアリスー(以下、シノアリス)』。独特な世界観がコアなファンの心をとらえ続け、2021年6月には「生前葬」というテーマを掲げた、ブラックユーモアたっぷりの4周年イベント「呪4周年 シノアリス生前葬 売上ガ好調なウチに、サービス終了ノお祭りヲやルのDEATH!!」も開催。『シノアリス』の衰えぬ人気の秘訣は、両社プロデューサーの気の置けない関係からもうかがえそうです。そんなお二人の、笑いの絶えない対談の模様をお届けします。
藤本 善也:株式会社スクウェア・エニックス 『シノアリス』プロデューサー
前田 翔悟:株式会社ポケラボ 『シノアリス』プロデューサー
他アプリでは絶対にやらない、『シノアリス』という稀有なステージ
ーー『シノアリス』4周年のイベントは、新ジョブや新章のリリースだけでなく、デスメタルのアレンジ楽曲の制作まで、内容が盛りだくさんでしたね。
前田:『シノアリス』ってゲームの世界観が尖っていますし、言い方を選びますが、良くも悪くも特殊なゲームだと思っています。ユーザーさんからも、他のゲームアプリでは絶対にやらないようなことを求められますから、周年イベントもユーザーさんの想像を良い意味で裏切るような企画を毎回用意するようにしています。回を追うごとに大掛かりになってきているので、いずれも早い段階から準備を始めますね。
藤本:僕が4=「死」と連想し周年イベントのテーマにデスメタルを提案したのは、あの大ヒットドラマで“おしまいDEATH!”のセリフが世で流行ったより早かったんですよ! ……私が先に思いついたというのは言っておきたくて(笑)。そのタイミングで、クリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウさんが「生前葬」をテーマにやろうと提案してくれました。
前田:今回は『クラスター』というバーチャルSNSのサービスを利用して、オンライン上に作った会場でユーザーの皆さんとのライブイベントを行いました。非常に好評いただけたようで、CDアルバム『SINoALICE must die』もおかげさまで完売しました。あとは、この4年を支えてくださったユーザーの皆さんにできるだけ還元しようと、豪華なプレゼント企画も実施しました。シノアリス史上最高金額の景品になり、なんと、テスラ(Model3 スタンダードレンジ プラス)と現金100万円と純金100グラムのセットを用意しました。
クラスターに用意されたバーチャル会場(左)と4周年生前葬CDアルバムジャケット(右)
ーーどの企画もユーザーの期待を飛び越えて、突き抜けたものになっていますよね。
藤本:でも、こういう悪ノリってすごく難しいんですよ。ともすると、文化祭のような内輪ウケのものになりがちなので、コアなファン以外の方が見てもちゃんと楽しめるエンターテインメントとして担保していかなければならない。そこのバランスは、メンバー全員ですごく気を遣っています。
前田:そうですね。ふざけたノリでやっているように見えるかもしれませんが、実は言葉の一つひとつの倫理チェックなども含めて、ひと通りのチェックをすべて踏まえてから発信しています。
藤本:こうしてユーザーさんと一緒に悪ノリできる環境を維持しながら4周年を迎えられたことは、すごくありがたいことだなと思いますよね。
両社のリスペクト、そして信頼関係が生んだシームレスな共同開発チーム
ーーお二人が出会って、ご一緒に仕事を始めてからはどのくらい経つのでしょうか。
前田:2015年から制作が始まりましたから、約6年ですね。
藤本:でも実は、それ以前から僕はポケラボさんに「何かいい機会があれば」と、共同開発の話を持ちかけていたんです。ポケラボさんのGvGエンジンの強みに、非常に魅力を感じていました。けれど、初めて具体的にご提案したこの「ヨコオさんのアリス」案件については、なかなか快いお返事をいただけなくて……。
前田:そうなんです。当時は『ニーア オートマタ』も出てなく、社内でプロモーションバリューに懐疑的な意見がありまして.....(苦笑)。でも僕は、ヨコオさんがディレクターを務めた『ニーア レプリカント』をプレイしてみて、めちゃくちゃ面白いと感じました。まだその時は、GvGエンジンに世界観を乗せたRPG+GvGという設定のゲームが世の中に存在しなかったので、これはぜひスクウェア・エニックスさん、ヨコオタロウさんとやってみたいと思い、社内各所に掛け合ったんです。
ーーこの2社の間では、ゲームの開発・運用においてそれぞれどのような部分を担っているのでしょうか。
藤本:非常に大まかな説明になりますが、世界観、シナリオ、キャラクターデザインや音楽といったゲームのイメージを創っていく部分に関してはスクウェア・エニックスが担当し、運営施策やメカニクスについてはポケラボさん、といった認識です。ただ、すごく良い意味で『シノアリス』チームは2社の境界が曖昧でした。それは各メンバーが相互の関係性をきちんと把握している結果でもあったと感じていますが。
前田:そうですね。シームレスに仕事ができたのは、信頼関係があってこそだと思います。
藤本:共同開発のお話が決まってすぐに、僕はポケラボさんのクリエイティブ部のポテンシャルに注目しました。僕が座組みをする際は、そこで起きる化学反応に期待して作っているようなところがあるんです。今回、クリエイティブディレクターのヨコオタロウさん、キャラクターデザインのジノさん、そしてポケラボさんのクリエイティブ部との掛け合わせにおいて、どんな化学反応が起きるかが非常に楽しみでしたね。
前田:ポケラボって、元々クリエイティブ力の高いメンバーが多いという特徴がありますからね。
藤本:『シノアリス』にとって、アートはゲームの核となる部分ですが、UIが上がってきてすぐに、僕は良い化学反応が起きていると感じました。『シノアリス』を通じて、2社がお互いの強みを今まで以上に引き出し合い、本領を発揮できたと思っています。
異なる視座と長期的な展望が、継続に繋がる
ーー『シノアリス』の開発は終始順調だったのでしょうか?
前田:ゲーム開発って、大抵スケジュール通りにいかないものなんですが、『シノアリス』のチームはとても雰囲気が良くて、進行も……まあまあスムーズだったと思います。
藤本:うん、まあまあ(笑)。全く波風が立たなかった、とは言いませんが、その都度の課題に対してきちんと両者で向き合ってきたと思います。
前田:開発でバタついたゲームって、運用に入ってからもうまくいかないことが多いですよね。
藤本:ゲーム開発って、どうしても期日までに完成させることが目的化しちゃう節がありますからね。でも本来は、多くのユーザーさんが楽しめる場所を維持していく運営の部分をきちんと見据えていないといけない。その点『シノアリス』については、ポケラボさんのお力もあって、安心して進めることができました。
前田:(大きくうなずく)
藤本:あ、ここはポケラボさんというより、前田さんのお力と言うべきところでしたか(笑)。
ーーその過程では、それぞれの社風の違いなどを感じることはありましたか?
前田:会社としての歴史や背景が違うので、文化の違いを感じることは当然ありました。スクウェア・エニックスさんは、これまでに魅力的な世界観を持ったRPGを数多く作って来られた。スクウェア・エニックスさんというブランドをすごく大切にされていますし、各タイトルも個性的で、プロジェクトごとに大きな権限を任されているように思います。
藤本:それは各プロデューサーへの重責とも言えます(笑)。
前田:厳密に言うと、グリーとポケラボはまた少し違いますが、グリーはソーシャルゲームを作ってきたので、数字や運用に強い。そして、どちらかというと、個々の作品よりはプラットフォーム全体を強化していく、有機的なつながりを重視していく発想のように感じています。
藤本:その文化の違いは確かにありましたね。
果てしない物語の最高のエンディングを、ユーザーとともに迎える日のために
ーー「生前葬」を行われていますが(笑)、『シノアリス』の今後の展望について教えてください。
前田:ソーシャルゲームのユーザー数が減っていくのは避けられないとしても、ユーザーさんに、より長く、ゲームを楽しんでいただきたいと思っています。『シノアリス』はコアな世界観のゲームなので、ユーザーさん同士が吸着しやすい構造を持っています。実際、ユーザーさんの多くがリリース当初からゲームをプレイしていて、それぞれとても仲が良いんです。ですから今後さらに、ゲームの内外でユーザーさん同士のコミュニケーションを促進させることに力を入れていきたいと考えています。そして、これまでの世界観を壊さず、かつ、新しい驚きを届ける挑戦を続けていければと。
藤本:目標を高く持って、常にユーザーさんの期待に応えつつ、期待を裏切っていくこと、でしょうね。ただ僕は、ユーザーさんにどういう気持ちで終わりを迎えていただくかということも、とても重要だと思っています。それこそ最後にみんなが集まって「良いゲームだったね」と泣いてもらえるような、そんなエンディングを用意したいと考えています。
ーーユーザーにとってはなんとも意味深な言葉ですが……。
藤本:いや、これはまだ先の話ですよ(笑)。コミックスや絵本など、『シノアリス』というIPの展開はこれからまだいろいろとありますから。それになんと言っても、今年の年末には前田さん悲願の一大イベントが待っています。ねえ、前田さん?
前田:はい。『シノアリス』はグローバル版がリリースされてちょうど1年経つのですが、今年の冬にGvGの世界戦の開催を予定しています。先ほどポケラボの強みとしてGvGを挙げていただきましたが、このGvGというフィールドは海外でも盛り上がっているんです。オリンピックの年ということもありますしね。世界中のギルドの頂上決戦「ワールドグランコロシアム」を開催する予定です。
藤本:僕は、生暖かい目で見守ります(笑)。
前田:僕はポケラボが掲げる「ソーシャルアプリで世界と人を変える」というコーポレートスローガンに感銘を受けて入社しました。『シノアリス』を担当する前からずっと、世界中のユーザーさんをつなぐような企画に携わりたくて。ついにそれを今回実現できることになりました。ぜひ楽しみにしてください。
ーーグローバルな夢の実現、本当におめでとうございます。実は今回、お二人初の対談ということでしたが、ぜひこの機会に、最後にお互いに何か一言。
藤本:今まで本当にありがとうございました。
前田:ありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。
藤本:引き続く、のかなぁ?
前田:(笑)
藤本:だってもう6年も経つと、倦怠期でしょう(笑)。
ーーありがとうございました(笑)。